【完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

20 半分こ  成人

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成人なるひと。半分だけ食べて、残りはこっちに寄越せ」
「え?小さいよ?」
「三つもあるだろう。おやつが入らなくなるぞ」
「う」

 ……そうかも。これより小さい一切れで、お昼ご飯を残してしまったんだった。
 仕方なく、半分だけかじって緋色ひいろの口に持っていく。

「はい。あーん」
「おう」

 うん。美味しい。じゅわ、と柔らかいのがいいねえ。村次むらつぐは、壱臣いちおみが商店街でお店を出してた時から、壱臣いちおみのだし巻き玉子が大好きだった。美味しい料理屋を見つけたって、俺と力丸りきまるを連れて行ってくれたんだったなあ。こんなに美味しいのに、この国の人が普段食べてる味や色味とちょっと違うからと、なかなか売れなくて困ってた。
 今は、こんなに大人気だ。
 村次むらつぐは、好きすぎて作れるようになっちゃった。頑張って練習してたもんなあ。すごい。
 壱臣いちおみの教え方も上手だから、難しくてもできるようになったんだろうなあ。うちの人は皆、すごい。

「おいし」
「おう。ありがと」

 横に立ってる村次むらつぐが、小さな声で言った。
 置いてくれていたお茶に、ふーふーと息をかけてから飲む。あ、冷めてた。誰かが、作っておいてくれたんだな。嬉しい。
 次は、矢渡やとのにしよう。緑のお皿。小さく切ったら崩れそうになっている。半分かじって、また緋色ひいろの口に持っていった。

「あーん」
「おう」

 うんうん。村次むらつぐのよりちょっと軟らかいけど、じゅわと出汁の味がしたよ。おんなじように美味しいよ。

「おいしい」
「あと一歩だな」

 緋色ひいろ、これ難しいんだから、何日か習いに来ただけでこんなにできるの、すごいんだよ?
 そう思って緋色ひいろの顔を見たら笑ってたので、矢渡やとは本当に、あと一歩なんだろう。うちの矢渡やともすごいな。
 最後の茶色いお皿のだし巻き玉子は、先に食べた二つよりしっかりしてて持ち上げやすい。持ちやすくて見た目も綺麗だけど、噛んでも、出汁があまり出てこなかった。美味しいけど、村次むらつぐのと似ていない。

「はい、緋色ひいろ。あーん」
「ん」

 最後、と緋色ひいろの口に安次嶺あじみねの作ったのを渡して、口の中の卵焼きを頑張って噛む。ちょっと硬めだからね。もちろん、卵焼きだからそんなに硬くない。でも、最初の二つが軟らかかったから、ちょっと硬く感じちゃうんだ。

成人なるひと村次むらつぐのをもう一つ寄越せ」

 あっという間に食べ終えた緋色ひいろが、また口を開く。

「えええ……」

 もともとの緋色ひいろの分、余ってるけどさ。自分で食べないの?
 ま、いいけど。
 持ち上げてみたら美味しそうで、俺もちょっとだけかじった。

「あ、こら」
「うん、おいし」
「お前、おやつ食べれるんだろうな?」

 食べるよ。今日はぶどうゼリー。ゼリーなんて、ぷるぷるのつるつるだから、つるんと入っていくに違いない!

「殿下あ。これ以上イチャつくんなら、帰りますよ?」

 常陸丸ひたちまる、イチャつくってなに?
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