895 / 1,321
第八章 郷に入っては郷に従え
19 味くらべ 成人
しおりを挟む
「んふふ。黄色い。綺麗」
「なんだ。ご機嫌直ってんな」
素早い村次は、あっという間にふわふわのだし巻き玉子を二つ作ってお皿に並べた。のんびりの壱臣と同じものができあがるの、不思議ね。丁寧な矢渡は、慎重に卵液を流しては巻いていく。手順は同じでも、卵を巻くのは全然違う速さに見えるのに、同じ見た目になっていくのが本当に不思議だ。そう見えるだけで、本当はおんなじことしてるのかな。
最後に、安次嶺がやった。慣れた様子で卵を巻いていく。ちゃんと上手だった。
最後に形を整えて、綺麗なだし巻き玉子が六つ並んだ。
そうして机に並べただし巻き玉子の見た目は、どれもそんなに変わらない。形が一番綺麗なのは安次嶺のかな。でも、どれか一つ好きなのを選べって言われたら、俺は村次のを選ぶ。出汁が卵に綺麗に絡んで、きらきらして見えるところが好き。
お皿をそれぞれで変えてあるから、作るのを見てた俺には、誰のかすぐに分かる。見てなかった人には分からないから、公平に判断できるんだって。俺は、黙ってたらいいのかな?
机の周りに、皆集まった。安次嶺と矢渡は、机から少し離れた場所に椅子を置いて座っている。声を出さないように約束して、常陸丸が横に立った。八代が、緋色と俺に頭を下げる。
「失礼致します、緋色殿下、成人殿下。村次の品を見本として、安次嶺と矢渡、どちらがより近い品となっているのかを判定しようと考えておりますが、それでよろしいでしょうか?」
「俺のことは気にするな。成人に、全て任せる」
「はっ」
「いいです。村次のは、壱臣のとそっくりです」
「はい。ありがとうございます」
八代は指示を出して、皆に紙と鉛筆を配り始めた。それを見てると、俺の座る席の横に立った村次が、ありがとって小声で言う。
「なに?」
「壱臣さんのとそっくり、って言ってもらって嬉しい」
「ふふ。だって、そっくり」
「そっか。へへ」
村次、頑張ったねえ。頑張ってるんだね。
「まずは質問だ。見本がどれか分かるか?」
白っぽいお皿に置いてあるのが村次の。濃い茶色のお皿が安次嶺。濃い緑のお皿が矢渡だ。
「白と思う者は手を挙げろ」
半分より多い人が手を挙げた。俺は手を挙げずに見てる。答えを知ってるからね。
「茶色」
誰も手を挙げなかった。茶色いお皿のは、きらきらが無いんだ。一番黄色いし、形も綺麗だけど、出汁が足りないのかな。きらきらしてない。
「緑」
半分より少ないけど、手が挙がった。うん。白いお皿のとよく似てるからね。矢渡、頑張ったなあ。
がたっと立ち上がりかけた安次嶺は、一瞬で常陸丸に、片手で押さえられている。
「正解は白だ」
ざわり、と空気が動いた。あちこちで、小声で何か話している。
「静まれ。では、白の皿の品を食べて後に、茶色と緑の皿の味見をする。より、白の皿に近い品だと思われる方の皿の色を書いて、私の所へ持ってきてくれ」
端っこに座っている人が二人、ばたばたと動いて卵を切って配っていった。だし巻き玉子を小さく切ってから乗せるお皿も、どれか分かるように白と茶色と緑にしてある。すごい。
しばらく、静かに食べる音が響いた。
「なんだ。ご機嫌直ってんな」
素早い村次は、あっという間にふわふわのだし巻き玉子を二つ作ってお皿に並べた。のんびりの壱臣と同じものができあがるの、不思議ね。丁寧な矢渡は、慎重に卵液を流しては巻いていく。手順は同じでも、卵を巻くのは全然違う速さに見えるのに、同じ見た目になっていくのが本当に不思議だ。そう見えるだけで、本当はおんなじことしてるのかな。
最後に、安次嶺がやった。慣れた様子で卵を巻いていく。ちゃんと上手だった。
最後に形を整えて、綺麗なだし巻き玉子が六つ並んだ。
そうして机に並べただし巻き玉子の見た目は、どれもそんなに変わらない。形が一番綺麗なのは安次嶺のかな。でも、どれか一つ好きなのを選べって言われたら、俺は村次のを選ぶ。出汁が卵に綺麗に絡んで、きらきらして見えるところが好き。
お皿をそれぞれで変えてあるから、作るのを見てた俺には、誰のかすぐに分かる。見てなかった人には分からないから、公平に判断できるんだって。俺は、黙ってたらいいのかな?
机の周りに、皆集まった。安次嶺と矢渡は、机から少し離れた場所に椅子を置いて座っている。声を出さないように約束して、常陸丸が横に立った。八代が、緋色と俺に頭を下げる。
「失礼致します、緋色殿下、成人殿下。村次の品を見本として、安次嶺と矢渡、どちらがより近い品となっているのかを判定しようと考えておりますが、それでよろしいでしょうか?」
「俺のことは気にするな。成人に、全て任せる」
「はっ」
「いいです。村次のは、壱臣のとそっくりです」
「はい。ありがとうございます」
八代は指示を出して、皆に紙と鉛筆を配り始めた。それを見てると、俺の座る席の横に立った村次が、ありがとって小声で言う。
「なに?」
「壱臣さんのとそっくり、って言ってもらって嬉しい」
「ふふ。だって、そっくり」
「そっか。へへ」
村次、頑張ったねえ。頑張ってるんだね。
「まずは質問だ。見本がどれか分かるか?」
白っぽいお皿に置いてあるのが村次の。濃い茶色のお皿が安次嶺。濃い緑のお皿が矢渡だ。
「白と思う者は手を挙げろ」
半分より多い人が手を挙げた。俺は手を挙げずに見てる。答えを知ってるからね。
「茶色」
誰も手を挙げなかった。茶色いお皿のは、きらきらが無いんだ。一番黄色いし、形も綺麗だけど、出汁が足りないのかな。きらきらしてない。
「緑」
半分より少ないけど、手が挙がった。うん。白いお皿のとよく似てるからね。矢渡、頑張ったなあ。
がたっと立ち上がりかけた安次嶺は、一瞬で常陸丸に、片手で押さえられている。
「正解は白だ」
ざわり、と空気が動いた。あちこちで、小声で何か話している。
「静まれ。では、白の皿の品を食べて後に、茶色と緑の皿の味見をする。より、白の皿に近い品だと思われる方の皿の色を書いて、私の所へ持ってきてくれ」
端っこに座っている人が二人、ばたばたと動いて卵を切って配っていった。だし巻き玉子を小さく切ってから乗せるお皿も、どれか分かるように白と茶色と緑にしてある。すごい。
しばらく、静かに食べる音が響いた。
470
お気に入りに追加
5,083
あなたにおすすめの小説
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる