【完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

13 そっくりな何か  成人

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 好きにご見学ください、と八代やつしろは頭を下げて、また別の人の所へ行った。
 矢渡やとは、俺にひとつ頷いて腕まくりをする。
 頑張れ、矢渡やと。俺、見てるよ。

公里くり家の者として、恥だけは晒してくれるなよ」
「せめて似た品を出すんだな」

 志雄しお満雄みつおはそう言うと、俺に頭を下げて、どこかへ行った。
 一応、仕事あるんだな。

「どっか行きたいとこある?見たいもんとか」

 村次むらつぐに聞かれた。案内してくれるんだったな。あ、そうか。この前、披露宴の料理を作る時にここを使ったから、色々知ってるのか。
 でも、ごめん。

矢渡やとのこと見てる」
「だな」

 村次むらつぐは、にやって笑った。村次むらつぐは、料理の手伝いをしにうちに来た頃は、笑ったりしなかったけど、力丸みたいに楽しそうに笑うようになった。
 あんまり喋ったりもしなかったな。一ノ瀬は、気持ちを大きく動かさない訓練をするらしいから仕方ない。うちでは皆、気持ちを出してるように見えるけど、外では出さないってことなんだろう。
 村次むらつぐは、怪我で動きにくくなった足が痛くても、痛いって言わずに我慢してた。
 誰かとそっくりだって力丸りきまるが言うから、誰?誰?と聞いたら俺だって。笑ってなかったかどうかは知らないけど、喋ってなかったのは本当なので、そうか、って思った。俺たち、似てるらしい。
 生松いくまつに診てもらって、足の怪我の治療を本気でして、広末ひろすえの手伝いをして、俺と力丸と遊んでいるうちに、笑ったり喋ったりするようになった。力丸にちょっと似てきたって言ったら、そんな訳ないって言われちゃったけど。でも、似てるんだけどな。
 たぶん、足の怪我の治療をしてから、一ノ瀬の訓練もしてる。そうじゃないと、料理人がこんなに強いわけがない。そのくらい、強いままだ。どんどん強くなっている。でも、一ノ瀬には戻らないんだろう。料理をしている村次むらつぐは、とても楽しそうだから。広末ひろすえ壱臣いちおみを尊敬して、追いつきたいと頑張ってるのがすごく分かる。
 厨房の端っこのコンロの前で準備を始めた矢渡やとも、村次むらつぐとそっくりな目をして、広末ひろすえ壱臣いちおみを見ていた。メモに書かれたたくさんのことが、矢渡やとの作る料理を美味しくするに違いない。
 俺は、忙しい音のし始めたお城の厨房の端っこで、矢渡やとが頑張るのをずっと見てた。たまに、茶色くなったりもしたけれど、いくつも作っていくうちに、どんどん黄色くてふわふわのだし巻き卵ができていく。厨房で味見する分や、使用人用の食堂でも出すらしい。
 途中で、安次嶺あじみねが様子を見にきた。俺を見ると、慌てて挨拶をして自分の仕事に戻って行った。心配だったのかな?
 俺が見守っているから、安心してほしい。
 出来上がった品が、母さまのお昼ご飯のお盆に乗せられて運ばれるところまで見て、一つお土産にもらって、おうちに帰った。
 

 
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