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第八章 郷に入っては郷に従え
7 それぞれの思うこと 成人
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「し、しかし、作り方を誰もが分かるように書き記すのは常識で……。常識の範囲の要望であります、殿下」
ふふん、ってなってたから、よく聞いてなかった。殿下、とだけ呼ばれるのは、俺の中では緋色のことなので、俺に話しかけているって分かってなかったのもある。
俺は、少し冷めたお茶をのんびりすすって、ぷはと顔を上げた。なんか、皆こっちを見てた。
「え?なに?」
広末が、ぽりぽりと頭をかく。
「なる坊。ちいとこちらの、安次嶺さんの話を聞いてやってくれるか」
「あ、うん」
聞いてなくてごめん。
「殿下。料理はまず、作り方や分量を記した書物を読み、それの通りに作成する所から始まります。まずは、先人の残した素晴らしき味を、如何にその通りに作成できるかが肝要なのです」
「……うん」
語ってるなあ。真剣に語ってるなあ。
「であるからして、その書物が無いものをどう再現せよ、と言うのか、私には意味が分かりません」
「だからよ。分量は渡したろ?俺も壱臣さんも。で、二人とも文字を書くのも文章を書くのも苦手だから、後は食べてみて、作ってる様子を自分で書き留めてみてくれって言ってんの」
「作っている者が書き留めておれば、それで済む話であろう」
「書いて渡してもさ、その通りにやらねえじゃん。城の人はさ」
広末が、少し口を尖らせた。見たことない顔だなあ。広末は、いつも楽しそうに料理してる。それか、真剣に新しい料理を考えている。俺が食べられなかった時は、眉を下げる。今日は食べ物、もういらないって言った時は、眉間に皺を寄せる。自分の子どもの末良を見る時は、嬉しそうに笑う。俺や家族の皆が、美味しいってたくさん食べた時も、嬉しそうに笑う。
口は尖らない。
「なんの話だ」
「昔、ほんの少しだけ城に身を寄せてた時の話だ。俺は免許を持ってないから城の厨房に入れねえってんで、緋色殿下やなる坊、うちの者の食事を城の厨房に任せた。殿下や他の大人たちは、好き嫌いあれど食える食事だったよ。けどな、なる坊や乙羽さまみてえに、噛む力や飲み込む力の弱い方の食える物が少なかった。せめても、となる坊用のミックスジュースや雑炊の作り方を必死で書いて渡してもらったんだが、出てきたのは、俺が書いた指南書通りの品じゃ無かったよ」
「そんなはずは無い」
「そうだったんだよ。城の滞在中に、うちの者が何人か体調崩してなあ。なる坊も酷かった。渡した指南書通りに作ってくれてたら、食べたり飲んだりできてたと思うんだが」
「……調理師免許も無い、名字も持たぬ男の料理の指南書など渡されても、作らなかったこともあるかもしれん。だが、昔の話が何だというのだ」
「つまり、だ。俺が必死に書いても、お城の料理人はその通りに作ってくれない可能性があるってことだ。それなら、作る者が見に来て、その過程を自分で書いて覚える方がいい、と思ったんだよ」
「うちも賛成したんよ。自分なりの手順で書いて覚えたら、忘れへんやろしねえ」
「あっちに伝えた時も、それでいいって話だったんだが」
「本当に!まったく!指南書が無いなどと、誰も思わんだろうが!」
うわあ、うるさい。
「え?」
って、言ったのは、安次嶺じゃない方の料理人だった。
「そうなのですか?!安次嶺さんは、書かなくても覚えられるから書いていらっしゃらないのか、と感心していたのですが?!」
うん。やっぱりこの人は普通の声が大きいな。
ふふん、ってなってたから、よく聞いてなかった。殿下、とだけ呼ばれるのは、俺の中では緋色のことなので、俺に話しかけているって分かってなかったのもある。
俺は、少し冷めたお茶をのんびりすすって、ぷはと顔を上げた。なんか、皆こっちを見てた。
「え?なに?」
広末が、ぽりぽりと頭をかく。
「なる坊。ちいとこちらの、安次嶺さんの話を聞いてやってくれるか」
「あ、うん」
聞いてなくてごめん。
「殿下。料理はまず、作り方や分量を記した書物を読み、それの通りに作成する所から始まります。まずは、先人の残した素晴らしき味を、如何にその通りに作成できるかが肝要なのです」
「……うん」
語ってるなあ。真剣に語ってるなあ。
「であるからして、その書物が無いものをどう再現せよ、と言うのか、私には意味が分かりません」
「だからよ。分量は渡したろ?俺も壱臣さんも。で、二人とも文字を書くのも文章を書くのも苦手だから、後は食べてみて、作ってる様子を自分で書き留めてみてくれって言ってんの」
「作っている者が書き留めておれば、それで済む話であろう」
「書いて渡してもさ、その通りにやらねえじゃん。城の人はさ」
広末が、少し口を尖らせた。見たことない顔だなあ。広末は、いつも楽しそうに料理してる。それか、真剣に新しい料理を考えている。俺が食べられなかった時は、眉を下げる。今日は食べ物、もういらないって言った時は、眉間に皺を寄せる。自分の子どもの末良を見る時は、嬉しそうに笑う。俺や家族の皆が、美味しいってたくさん食べた時も、嬉しそうに笑う。
口は尖らない。
「なんの話だ」
「昔、ほんの少しだけ城に身を寄せてた時の話だ。俺は免許を持ってないから城の厨房に入れねえってんで、緋色殿下やなる坊、うちの者の食事を城の厨房に任せた。殿下や他の大人たちは、好き嫌いあれど食える食事だったよ。けどな、なる坊や乙羽さまみてえに、噛む力や飲み込む力の弱い方の食える物が少なかった。せめても、となる坊用のミックスジュースや雑炊の作り方を必死で書いて渡してもらったんだが、出てきたのは、俺が書いた指南書通りの品じゃ無かったよ」
「そんなはずは無い」
「そうだったんだよ。城の滞在中に、うちの者が何人か体調崩してなあ。なる坊も酷かった。渡した指南書通りに作ってくれてたら、食べたり飲んだりできてたと思うんだが」
「……調理師免許も無い、名字も持たぬ男の料理の指南書など渡されても、作らなかったこともあるかもしれん。だが、昔の話が何だというのだ」
「つまり、だ。俺が必死に書いても、お城の料理人はその通りに作ってくれない可能性があるってことだ。それなら、作る者が見に来て、その過程を自分で書いて覚える方がいい、と思ったんだよ」
「うちも賛成したんよ。自分なりの手順で書いて覚えたら、忘れへんやろしねえ」
「あっちに伝えた時も、それでいいって話だったんだが」
「本当に!まったく!指南書が無いなどと、誰も思わんだろうが!」
うわあ、うるさい。
「え?」
って、言ったのは、安次嶺じゃない方の料理人だった。
「そうなのですか?!安次嶺さんは、書かなくても覚えられるから書いていらっしゃらないのか、と感心していたのですが?!」
うん。やっぱりこの人は普通の声が大きいな。
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