【完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

3 言っていい  成人

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成人なるひとさま」
「んー?」

 緋色ひいろの抱っこから下りて、着物の着心地を確かめる。
 ずっと着てて慣れてくると、着物の袖と袴の裾が広がってるのが面白くなってきて、腕を持ち上げて、くると回ってみた。
 ふわ、と布が広がって収まる。
 ふふ。面白い。

「ぐぅ」

 祈里いのりの喉が鳴った。いや、何人か鳴った。
 ん?緋色ひいろが格好良かったか?俺、回ってる間に何か見逃した?
 慌てて緋色ひいろを見たけど、何にも動いていない。俺を抱っこから下ろしたまんまだ。
 あれ?

「ん、んん。失礼しました。あの、成人なるひとさま。着物の形を変えてもよろしいですか?」
「形?」
「はい。その、袴を無しにして、腰に華やかな帯を巻いては如何かと」
「ふーん?」
「主に女性が身に付ける形の着物なのですが、そちらの方がその、布の広がりが少なくすみます」
「んー?」
赤虎せきとらさまの結婚式で、女性の方々が身につけておられた着物です」

 ああー。あれね。赤璃あかりさまの赤の着物、綺麗だったなあ。裾に入った金の模様も、金の帯も素敵だった。
 あれは足がすーすーしない?でも、とても歩きにくそう。帯でぎゅうぎゅう締めるのも好きじゃない。なにより。

「俺、緋色ひいろとお揃いがいい」

 さっき何でもいいって言ったけど、やっぱり何でも良くないです。ん?言ったっけ?まあ、いっか。譲れないところは言っておこう。

「ぐぅぅ」

 さっきまでより長く喉が鳴ったね、祈里いのり

「承りました、成人なるひとさま。そうして教えて頂けると嬉しいですわ」

 涼乃絵すずのえが笑う。

「嬉しい?」

 困るのじゃなく?

「ええ。着られる方が、より好みであるようにお作りすることが出来るんですもの。嬉しいのです」

 おお。そうだったのか。言ってもいいのか。

「それでは、もう少しだけ動きやすい形にならないか考えてみますね」
「ありがと」

 くるって回ると広がるのが楽しいから、これでもいいけど。

「決まったか」
緋色ひいろ殿下は、何かご意見ございませんか?」
「ないな」

 緋色ひいろは、あっさり。
 無いの?
 そうだなあ。緋色ひいろは何着ても格好良いから、いっか。
 ふふ。
 緋色ひいろをじっと見てたら、ああ、と笑った。

「袖や裾が少し広がっていて、動きを邪魔しない服を考えてみてくれ。普段着で」
「普段着で、ですか?」

 緋色ひいろは、くくっと笑って俺を持ち上げて、くるっと回る。
 ふわ、と二人の袴の裾が広がった。袖も少しだけ。

「あはは」
「これが楽しいんだろ?俺はいらんが、成人なるひとにひとつ二つあってもいい」

 涼乃絵すずのえ祈里いのりも、他の三人もすっごく笑って頷いてくれた。
 ふふ。
 服も、色々楽しい。
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