【完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

159 また今度  成人

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「時間ができたら行くけど」

 肉団子、とろりとしたあんが甘酸っぱくて美味しいけれど、頑張って噛まないといけないやつだ。肉だからね。肉はどんな形にしてもたくさん噛まないと飲み込めない。
 俺は頑張って噛みながら母さまに返事をした。

「おや。この机は酒がない」

 誰か来たなと思ったら緋見呼ひみこさま。
 何か言おうとした母さまが口を閉じる。緋見呼ひみこさまは、ちらりと母さまを見てから空いている俺の隣の椅子に座った。椅子は六個置いてあるから、あと一つ余ってる。
 ほかの机は、座って食べている人の所に色んな人が近寄っては話しているけれど、この机には誰も来ていなかった。
 お酒を持って注いで回っている人も多い。お酒臭いから、じいじのとこには行かないことにしよう。写真を撮る時に衣装は見せた。じいじは、成人なるひと緋色ひいろ殿下とお揃いで格好良い衣装じゃなって言ってくれたから、今日はお酒、いつもよりいっぱい飲んでもいいよ。めでたいめでたい、とご機嫌な声が聞こえてくる。じいじはいつも声が大きい。

成人なるひとが酒の匂いが嫌いだからな。今はいらん。飲んだらキスさせてくれないんだ」
「ほほほ。キスの方が甘露であったか。では水で乾杯じゃ。兄上も飲まれませぬか?」
「人前で飲むのは好まない」
「そうでしたね」
「へえ」

 緋色ひいろが驚いている。
 かんろって何だろ。今日はメモ帳を持っていない。覚えていたら後で調べよう。

「知らなんだか」
「ああ」

 緋見呼ひみこさまに緋色ひいろが答えて、父さまは少し笑って話した。

「怖いだろう?自分を律せるか分からぬ状態になる飲み物を他人の前で飲むなんて」
「そんなにすぐ酔うのか」
「そこまで飲んだことはないが」
「ならいいんじゃないのか?飲んだって」
「息子となら、飲んでみたいとは思っておるよ」
「やぶ蛇だった」
「そのうち、付き合え」
朱実あけみと飲めばいい」

 緋色ひいろは、ふいと横を向く。そんなに嫌じゃない時の顔だ。

「疎遠にしとるから知らぬのじゃ。ちいとは親の顔も見に来よ」
「そのうちな。時間があれば」

 俺とおんなじこと言ってる。

「そればっかり!」

 母さまが急に大きい声を出した。緋見呼ひみこさまが使用人に注文していた水のコップが五つ届いて、乾杯しようとした所だった。

「時間があればって、結局無いじゃない。誰も来ない。成人なるひとちゃんまでそんなこと言って。何時間でも泳ぐ金魚を見てたのに。お昼寝だってしてたのに」

 そうなんだよね。その時は時間あった。でも本当に、今は時間足りないんだよ。嘘じゃない。すごく考えても、答えは一緒だ。

「母さま。また今度行くよ」
「どうして」

 顔を覆って悲しむ母さまに、でも俺は同じことしか言えない。
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