【完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

155 父さまは楽しい  成人

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「どこへ行く。緋色ひいろ成人なるひと
「ご飯」

 挨拶を終えた父さまに呼び止められる。料理は真ん中の机に並んでいるんだから、取ってこないと食べられないよ?

「む?」
「ご飯食べる」
「ご自分で取りに行かないと、食べられませんよ」
「む、そうか」

 緋色ひいろが言ったら、父さまも俺たちの横についてきた。

「一緒に行く?」
「ふむ、そうしよう」
「げ……」
「何か言ったか、緋色ひいろ?」
「いいえ?何にも?」
「ならばよい」

 げっ、て言ったよ。げっ、て。
 言ってないことになったの?父さま、絶対聞こえてるよね。

「わ、私も……」
雫石しずく母さまも行く?」
「うえ……」
緋色ひいろ?」
「何ですか、父上」

 何これ、なにこれ?聞こえないふりごっこ?
 二人とも澄ました顔してるのが面白い。

「ふ、ふふっ」
「なんだ、成人なるひと
「なんでもなーい」
「なんでもなくないだろ。言え」
「ええ?」

 なんでここは聞こえないふりじゃないの?俺ともやろうよ。

「聞こえないふりごっこは?」
「は?」
「父さまとしてるでしょ」
「はああ?」
「ぶっ」

 父さまが吹き出した。

「はははははっ」

 大きな声で笑う。
 周りの人が、一斉にこっちを向いた。

「そうか、聞こえないふりごっこか。ははっ、ははは」

 あれ?

「違うの?」

 緋色ひいろは、はあと息を吐いた。父さまはますます笑う。

「く、くくく。違わない、違わないぞ、成人なるひと

 やっぱり!
 でも緋色ひいろは俺とはしてくれない。

「なんでー?」
「何が?」
「なんで俺とはしない?」

 む、と緋色ひいろが俺を見る。

「全部知りたいから」
「全部?」
「そう、全部」
「そっか」
「そうだ」

 そうだなあ。俺も、緋色ひいろのこと全部知りたい。聞こえてるのに聞こえないふりなんて、嫌かも。

「分かった」
「そうか」
「私の声も、聞こえてくれると助かるぞ」
「たまにでいい」

 父さまが、うんと笑った。

「たまにでもいい」

 今日はよく笑うね。

「父さま、楽しい?」
「ああ、とても」

 なら良かった。

「俺も楽しい」
「それは何より」
「うん」
成人なるひとちゃん」

 今度は母さまが話しかけてきた。母さまは、人がたくさんいる所が苦手だけれど、今日は一緒にご飯食べるんだろうか。

「金魚が寂しがってるわ」

 そういえば、会いに行ってなかったなあ。色々、色々やりたいことがあって、でもできる時間が限られていると、金魚は後回しになっちゃった。

「また今度行く」
「それはいつ?」

 うーん、いつだろ。時間が余ってたら、かなあ。
 やりたい事や会いたい人、一緒に遊びたい人が増えた。でも、俺の時間は増えないから選ばなきゃいけなくて……。
 考えたけど、いつって言えそうにない。
 
「また今度」

 時間が余ってたら、絶対行くからね。
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