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第七章 冠婚葬祭
147 人間万事塞翁が馬 緋色
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昼の準備で忙しい中、うちの料理人たちはいつも通りに朝食を並べていた。城の奴らを上手く使えばいいものを、と言えば、
「せっかくのハレの日に、いつもと違う食事で調子を崩しちゃいけねえ」
と、広末は笑った。昨夜は離宮に泊まったようだ。その意見には大いに賛成だが、お前の体調にも是非気を配ってほしいものだな。式の日取りが決まってからは、ほとんど休まずに働いていたことを知っている。あまりに楽しそうにしているから、休めとも言えずに日は過ぎた。見事な結婚式の料理案を出してきた手腕は流石だ。終わったら、特別手当てと休暇をたんまりと渡しておかねばなるまい。
主役の一人のはずの壱臣もいつも通りに厨房に立っていて、
「いつも通りが一番なんです」
と、笑うのだから何も言えやしない。お前の家族に、式の前日だけでなく当日も働かせているのか、と詰られそうなんだが?説明は自分で頼むぞ。
晴れて、離宮の正式な三人目の調理師となった村次は、そんな壱臣を見て苦笑を漏らしていた。適当に、厨房から出してやってくれ。
有能な料理人たちのおかげで、成人や斎の体調に不安はない。予定通り城へと向かった。週に一度定められた休日であるため、敷地内も建物内も人は極端に少なく、過ごしやすくて助かる。
緋椀と作治は早々に登城していた。
衣装に着替え、先ずは二人づつの写真を撮る。折角の揃いの衣装なので、それが映えるようにと姿を整えた。俺はもちろん、成人を抱き上げて前を向く。成人の方から抱き上げてくれと手を広げてきたからな。俺たちの衣装はその形で揃いの模様となっているのだから、堂々とそれで写れる。いいな、これ。衣装部にも特別手当てを弾もう。
緋椀や壱臣は、腕を組んでこそ揃いの模様が美しく出るのだからとそのように立たされて、非常に恥ずかしがっていた。見ている者がいると照れるのかもしれない、と写真を撮る部屋から追い出されたので、仕上がりが楽しみだ。
その後は、それぞれの家族の集まりで写真を撮った。うちは、父と母、朱実と赤璃と赤ん坊に俺たちの七人。俺は特にその面子で撮りたいとも思わないが、父と母が欲しがっていたので仕方ない。これも親孝行ってやつか。
緋椀の所は、作治の親族が誰もいないと言うのに一条家が三人と七条家から叔母上夫婦と見可で三人、朱実に赤璃に赤ん坊まで加わって十一人の大所帯だ。
作治が家督を親族に譲り三雲家と距離を置いていることは、今回の事があるまで知らなかった。幾度も戦場へ出る軍属など、何らかの事情持ちなのは常識だ。わざわざ聞くことでもない。
「母は若くして病気で亡くなりまして、父一人子一人でした」
「そうか」
「その父も、俺が戦場にいる間に風邪を拗らせたらしく、半年経って帰った頃にはもう」
「そうか……」
「死に目には会えましたが、最後まで、孫の顔が見たいと言われてしまいましてね。まあ、その言葉から逃げて結局父を早死にさせたのかと思うと、少々落ち込むことではありました」
はっきりと聞いたことは無かったが、作治は女を愛して子を成すことが難しい質であったのだろう。
「今後も軍で生きるつもりであるから、と家や墓を親族に任せましたので、それきりです。俺は、一人でどこかで野垂れ死ぬのだとばかり……」
そう言って珍しく言葉を詰まらせていた男の結婚式の家族写真が、十一人の大所帯。
人生、何があるか分からないものだな。
「せっかくのハレの日に、いつもと違う食事で調子を崩しちゃいけねえ」
と、広末は笑った。昨夜は離宮に泊まったようだ。その意見には大いに賛成だが、お前の体調にも是非気を配ってほしいものだな。式の日取りが決まってからは、ほとんど休まずに働いていたことを知っている。あまりに楽しそうにしているから、休めとも言えずに日は過ぎた。見事な結婚式の料理案を出してきた手腕は流石だ。終わったら、特別手当てと休暇をたんまりと渡しておかねばなるまい。
主役の一人のはずの壱臣もいつも通りに厨房に立っていて、
「いつも通りが一番なんです」
と、笑うのだから何も言えやしない。お前の家族に、式の前日だけでなく当日も働かせているのか、と詰られそうなんだが?説明は自分で頼むぞ。
晴れて、離宮の正式な三人目の調理師となった村次は、そんな壱臣を見て苦笑を漏らしていた。適当に、厨房から出してやってくれ。
有能な料理人たちのおかげで、成人や斎の体調に不安はない。予定通り城へと向かった。週に一度定められた休日であるため、敷地内も建物内も人は極端に少なく、過ごしやすくて助かる。
緋椀と作治は早々に登城していた。
衣装に着替え、先ずは二人づつの写真を撮る。折角の揃いの衣装なので、それが映えるようにと姿を整えた。俺はもちろん、成人を抱き上げて前を向く。成人の方から抱き上げてくれと手を広げてきたからな。俺たちの衣装はその形で揃いの模様となっているのだから、堂々とそれで写れる。いいな、これ。衣装部にも特別手当てを弾もう。
緋椀や壱臣は、腕を組んでこそ揃いの模様が美しく出るのだからとそのように立たされて、非常に恥ずかしがっていた。見ている者がいると照れるのかもしれない、と写真を撮る部屋から追い出されたので、仕上がりが楽しみだ。
その後は、それぞれの家族の集まりで写真を撮った。うちは、父と母、朱実と赤璃と赤ん坊に俺たちの七人。俺は特にその面子で撮りたいとも思わないが、父と母が欲しがっていたので仕方ない。これも親孝行ってやつか。
緋椀の所は、作治の親族が誰もいないと言うのに一条家が三人と七条家から叔母上夫婦と見可で三人、朱実に赤璃に赤ん坊まで加わって十一人の大所帯だ。
作治が家督を親族に譲り三雲家と距離を置いていることは、今回の事があるまで知らなかった。幾度も戦場へ出る軍属など、何らかの事情持ちなのは常識だ。わざわざ聞くことでもない。
「母は若くして病気で亡くなりまして、父一人子一人でした」
「そうか」
「その父も、俺が戦場にいる間に風邪を拗らせたらしく、半年経って帰った頃にはもう」
「そうか……」
「死に目には会えましたが、最後まで、孫の顔が見たいと言われてしまいましてね。まあ、その言葉から逃げて結局父を早死にさせたのかと思うと、少々落ち込むことではありました」
はっきりと聞いたことは無かったが、作治は女を愛して子を成すことが難しい質であったのだろう。
「今後も軍で生きるつもりであるから、と家や墓を親族に任せましたので、それきりです。俺は、一人でどこかで野垂れ死ぬのだとばかり……」
そう言って珍しく言葉を詰まらせていた男の結婚式の家族写真が、十一人の大所帯。
人生、何があるか分からないものだな。
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