【完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

144 親孝行の食卓  成人

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 夜ご飯は、天ぷらだった。ご馳走だ。天ぷらと白いお味噌汁と壱臣いちおみが一番得意なだし巻き卵。俺は、さつまいもの天ぷらが好き。かぼちゃも美味しい。甘くて、さくさくなのに軟らかくて、すごく好き。海老の天ぷらもちょっと噛むのが大変だけど、噛めば噛むほど味が出てきて好き。ししとうも食べる。天ぷらにすると好きだなあ。
 
「ご飯と順番に食えよ」
「うん」
「味噌汁は全部飲め」
「うん」

 さつまいもの天ぷらを一生懸命噛んでいたら緋色ひいろが言った。俺は油がたくさんの料理を食べ過ぎるとお腹が痛くなるから、心配してくれているんだ。ああ、でも、いっつも、どんなおかずでも、順番に食えよって緋色ひいろは言う。力丸りきまるも。色々食べた方が体に良いから。俺、もう知ってるよ。味噌汁飲んでたら大体大丈夫なんだよね?俺は、毎日味噌汁を飲んでいるからもう大丈夫。
 力丸りきまるは姿が見えない。仕事の後で才蔵さいぞうに会いに行ってるのかも。今日は才蔵さいぞう弐角にかくと一緒じゃないから、ここにいても会えない。力丸りきまるならきっと、友だちに会いに行くよね。そっちで使用人向けの食事を一緒に食べて、ちょっと運動しようぜって手合わせして、お風呂も一緒に入って帰って来るんじゃないかな。楽しそう。

「ふふ」
「どうした?」
力丸りきまる、いないね」
「そうだな?」
「いいね」
「いいのか?」
「うん」
「そうか」

 緋色ひいろは今日も、もりもり食べる。熱いものは熱いうちに、冷たいものは冷たいまま食べるのが好きだから、味噌汁とかすぐに飲んじゃう。俺には順番に食えって言うのに、自分はそうじゃないんだよ。おかしいよね。でも残さず全部食べるから、お腹の中では一緒か。味噌汁を飲んでるからいっか。
 油の多い食べ物は、俺より乙羽おとわの方が苦手。
 乙羽おとわは、お城の結婚式会場準備を手伝っていて、さっきおうちに帰ってきた。常陸丸ひたちまるがいつも通り隣に座って、乙羽おとわの天ぷらの衣を半分外す。その衣は、常陸丸ひたちまるが食べちゃう。さくさくだけってのも美味しそうだな。後でやってみようかな。
 主役の八人は会場に立ち入り禁止で、準備は手伝えなかった。明日のお楽しみなんだって。
 緋椀ひまり作治さくじはもともと離宮にいないし、大勢がお城に出かけて準備していたから、今日はおうちは本当に静かだった。お客様が来て、一気に賑やかになったけど。
 お客様は、俺たちから少し離れて、壱臣いちおみ半助はんすけと一緒に七人で夕食を食べている。壱鷹いちたか弐藤にふじ壱臣いちおみに話しかけて、壱臣いちおみがお返事をしたり、頷いたりしてるのが見える。柚子ゆずも、おうちに来た時は静かな人かと思ったけど、今は壱臣いちおみにたくさん話しかけているみたいだ。
 あれが、親孝行なのか。
 ご飯時間のちょっと前にお城の厨房から戻ってきた村次むらつぐが、

「後は引き受けるから、壱臣いちおみさんはご家族と食べてきてください」

 って、壱臣いちおみを厨房から追い出した。俺も、壱臣いちおみを呼びに行ってた所だったからちょうど良かった。

「ご飯を一緒に食べるのも親孝行?」
成人なるひと、良いこと言うなあ」
「さっき聞いた」
「そうかあ」
「当たり?」
「親が喜ぶんだから当たりだろ」

 やっぱり!

「うちは、作ったもん食べてもらえたらそれでええけど……」

 うーん。やっぱり子どもの側は、そんな感じ?

「確かに。普段一緒にいないと、何話したらいいかってなるかもしれないですね……」

 村次むらつぐがそんなこと言うから、ご飯を一緒に食べるのが親孝行っていうのが当たりかどうかまた分からなくなってしまったけど、今見たらたくさん話してるし、きっと壱臣いちおみは親孝行できたんだろう。きっとそうだ。
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