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第七章 冠婚葬祭
134 それでも俺は 成人
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「坂寄、帰る?」
「いえ……」
短い答えにびっくりした。
帰らないの?お仕事終わったのに。ひめさまのお世話はしなくていいの?
「でも、お仕事終わったけど」
「はい。お世話になりました」
坂寄は、もともと下げていた頭をもっと下げて言う。
お世話になったのは俺たちじゃない?綺麗な衣装を作ってもらった。坂寄の縫い物の腕は凄いって祈里が言っていた。
「えーと。俺が、ありがとう」
「まことに、もったいなく」
それ、さっきも誰か言ってたね。良い意味のお返しの言葉に違いない。
「なかなか殊勝になったな」
「人は学ぶ生き物でございますよ、殿下」
「くく。お前に預けたは正解だった、涼乃絵。とはいえ、先日五条の前当主に小言を貰ったぞ。わざわざ離宮に来たのだから、お前に相当な負担がかかっておったのだろう。反省している……少しだけな」
「まあ、あの人ったら……。本当に負担となれば、わたくしは自分で申しますと常々申しておりますのに」
「いや、まあ、すまなかった。丸投げした自覚はある」
くすくすくす、と涼乃絵は笑う。
「殿下も随分と殊勝になられて」
「理解の範疇を超えることは、何をどうしても分からん」
まあ、と涼乃絵は笑う。
俺はびっくりだ。
緋色にも分からないことあるんだなあ。
「何が分からない?」
「何が……。そうだな。椿という者の行動、それに至る考え、だな」
「弱いのに護衛の仕事するって言うとか?」
「そうだ」
うん。確かにそれは分からない。護衛っていうのは、大切な人の命を守る仕事だから本当に強くないとできない。自分と、守る人の命と二つ抱えられないといけないんだもの。自分だけを守るために強くなるのじゃ駄目なんだ。
ああ、俺も強くなりたいな。自分と緋色の命を守れるようになりたい。今、鍛えることができたら、前よりもっと強くなれるのに。
ふる、と坂寄が震えた。
「坂寄?」
「発言を許す」
坂寄は、緋色の言葉に少し頭を上げた。
「椿さまは、護衛としての技量が足りなかったのですね」
「人の命まで抱えられる器ではなかった」
坂寄は小さく頷く。
「命をかけて、橙々さまを守ろうとしていらっしゃった事は、お認め頂けますか……?」
「……?」
俺は半助を見る。違うよね。違う。
「命はかけない。死んだら守れない」
半助が言ってくれた。
そうだよ。生きて生き延びて守るんだ。何を失くしても、生きて守る。それが、護衛。
坂寄が、ぽかんと口を開けた。それから、ぎゅと口をつぐむ。
「分からないなら分からないままでいい。世の中にはそんな事がたくさんある」
緋色に、もう一度深く頭を下げた坂寄は、他の手伝いの人と一緒に出ていった。
どうしても分からないこと。そうだなあ、あるなあ。
それでも俺はこれからも、知らないことを知りたくて、聞いたり調べたりするんだろう。
「いえ……」
短い答えにびっくりした。
帰らないの?お仕事終わったのに。ひめさまのお世話はしなくていいの?
「でも、お仕事終わったけど」
「はい。お世話になりました」
坂寄は、もともと下げていた頭をもっと下げて言う。
お世話になったのは俺たちじゃない?綺麗な衣装を作ってもらった。坂寄の縫い物の腕は凄いって祈里が言っていた。
「えーと。俺が、ありがとう」
「まことに、もったいなく」
それ、さっきも誰か言ってたね。良い意味のお返しの言葉に違いない。
「なかなか殊勝になったな」
「人は学ぶ生き物でございますよ、殿下」
「くく。お前に預けたは正解だった、涼乃絵。とはいえ、先日五条の前当主に小言を貰ったぞ。わざわざ離宮に来たのだから、お前に相当な負担がかかっておったのだろう。反省している……少しだけな」
「まあ、あの人ったら……。本当に負担となれば、わたくしは自分で申しますと常々申しておりますのに」
「いや、まあ、すまなかった。丸投げした自覚はある」
くすくすくす、と涼乃絵は笑う。
「殿下も随分と殊勝になられて」
「理解の範疇を超えることは、何をどうしても分からん」
まあ、と涼乃絵は笑う。
俺はびっくりだ。
緋色にも分からないことあるんだなあ。
「何が分からない?」
「何が……。そうだな。椿という者の行動、それに至る考え、だな」
「弱いのに護衛の仕事するって言うとか?」
「そうだ」
うん。確かにそれは分からない。護衛っていうのは、大切な人の命を守る仕事だから本当に強くないとできない。自分と、守る人の命と二つ抱えられないといけないんだもの。自分だけを守るために強くなるのじゃ駄目なんだ。
ああ、俺も強くなりたいな。自分と緋色の命を守れるようになりたい。今、鍛えることができたら、前よりもっと強くなれるのに。
ふる、と坂寄が震えた。
「坂寄?」
「発言を許す」
坂寄は、緋色の言葉に少し頭を上げた。
「椿さまは、護衛としての技量が足りなかったのですね」
「人の命まで抱えられる器ではなかった」
坂寄は小さく頷く。
「命をかけて、橙々さまを守ろうとしていらっしゃった事は、お認め頂けますか……?」
「……?」
俺は半助を見る。違うよね。違う。
「命はかけない。死んだら守れない」
半助が言ってくれた。
そうだよ。生きて生き延びて守るんだ。何を失くしても、生きて守る。それが、護衛。
坂寄が、ぽかんと口を開けた。それから、ぎゅと口をつぐむ。
「分からないなら分からないままでいい。世の中にはそんな事がたくさんある」
緋色に、もう一度深く頭を下げた坂寄は、他の手伝いの人と一緒に出ていった。
どうしても分からないこと。そうだなあ、あるなあ。
それでも俺はこれからも、知らないことを知りたくて、聞いたり調べたりするんだろう。
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