【完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
上 下
840 / 1,321
第七章 冠婚葬祭

129 最後の衣装合わせ  成人

しおりを挟む
 雨の多い月が終わると、ひと息に気温が高くなる。からりとして、少し暑いくらい。そんな気候が俺は好きなので、調子が良い。さいも、おんなじ。俺たち、同じ国の人だもんね。頭に、おんなじ手術痕もあるし。
 そんな調子の良い俺たちの横で、緋色ひいろが、暑いと言い始める。これは大変。結婚式を急がないと、緋色ひいろが正装で汗だくになってしまう。
 そう思っていたら、最後の衣装合わせに来てください、とお手紙が届いた。
 流石、涼乃絵すずのえ緋色ひいろのこと、よく分かってるね。作治さくじも暑がりらしい。皆が調子良い季節は今だ!と大急ぎで頑張ってくれたんだって。
 お手紙が届いた次の日には、衣装部へ皆で出かけた。緋椀ひまり作治さくじも、七条の屋敷から来てくれたよ。作治さくじは、結婚式のお話になると行動が素早い。いつも、どんな仕事も素早いらしいけれど、もっと素早い。緋色ひいろが楽しそうに笑ってた。

「楽しみにしすぎだろ」
「ええ。楽しみにしすぎて、この日々が終わって欲しくないような心持ちまでしてきております」
「はは。なんだそりゃ」
「その日が来てしまうと、このわくわくした毎日が終わってしまうのか、と思うと寂しくてですね」
「はは。ははは」
「けれど、衣装をまとった緋椀ひまりを早く目にしたいという気持ちも抑えきれず……」
「ははははは。そんなに楽しんで貰えるとは思わなかった」

 すごく、すごーく楽しそうに笑う緋色ひいろを、作治さくじは眩しそうに見る。にこにこして頭を下げる。

「殿下。本当に、ありがとうございます」
「畏まるな。楽しい遊びだろ」
「ええ。最高の戯れです」
「な」

 やっぱり仲良しの二人は、二人で、はははと笑うんだ。
 衣装部では、この前合わせた時よりもっと体にぴったりと丁度よくなった衣装を着た皆が、ずらりと並んだ。この前は、まだちゃんと縫っていなかったんだって。形とかの確認だった、とか?俺にはよく分からないんだけど、あの時もちゃんと布はほどけないようになってたから、もうほとんど完成かと思ってた。あの時の留めてた糸は、一度全部ほどいたらしいよ。うーん、大変。
 刺繍とか模様とかも、前に見た時よりもっとすごいことになっている。緋椀ひまりの衣装は、作治さくじの注文通りに腰の所がきゅ、と絞られた後でふわりと少し広がる形になっていて、ちょっと可愛かった。緋椀ひまりにすごく、すごーく似合っている。
 壱臣いちおみは前の時に、痩せたって言われてちょっと怒られてたけど、大丈夫だったかな。うん。大丈夫そうだな。
 俺が今、怒られそうになってるけどね。

「予想よりも減ってますね。成人なるひとさまもさいさまも」

 あ、さいも?
 頑張ったんだけどなあ。ゼリーとか、食べてたんだけど。
 俺のズボンが緩くて、祈里いのりが、むうってなっている。さいのとこでも衣装部の男の人が、むむって唸っている。

「天気に左右されるからなあ。勘弁してやってくれ。体調は回復している」
「はい、殿下」

 祈里いのりが、隣の緋色ひいろに頭を下げた。

「すみません。お天気での体調不良と分かってはいるんですが、それでも、どうしても心配してしまって……」
「ごめんね、祈里いのり

 小さく聞こえた言葉に、謝った。
 差し入れも、しばらく持ってこられなかったから、心配してたんだよね。灯可とうかみたいにうちに来てくれたら、大丈夫って言えたんだけど。

「今度、雨の時、俺が来れない時は祈里いのりがおうちに来てね。おやつの時間に来たらいいよ」
「そうしろ。誰かいる方が食べるからな」

 一度頭を上げた祈里いのりが大きく目を見開いてから、もう一度頭を深く下げた。

「ありがとうございます。是非……!」

 やった。外に出られない時に来てくれる友だちが、また増えた!
しおりを挟む
感想 2,394

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...