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第七章 冠婚葬祭
121 髪はまた伸びる 祈里
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「申し訳ありません……」
返事が返ってきたので、ほっとする。少しきつい物言いだったかな、と反省した。せめて上から見下ろすのはやめようと、近くに腰を下ろす。衣装部は、座り仕事がしやすいように、あちらこちらに椅子と机が設置してある。涼乃絵さま用の品以外は、誰のものという訳でもなく自由に使用している。
とはいえ、衣装部専属の四人にはそれぞれ気に入りの場所があって、やりかけの仕事の荷物が積んであるのだけれど。ミシンは専用の部屋があり、お手伝いの方はそちらで作業をして頂くことが多い。手縫いの手伝いは、非常にまれだ。自分たちでやらないと納得の出来にならない事が多いため、あまり手伝いを頼まなくなったから。
デザインの依頼を受ける時の、お話を聞く応接セットのような立派なソファと机もあり、そちらは最近、よく差し入れを持って来てくださる成人さまの、ひと休みする場所にもなっている。成人さまを囲んで皆で食べるおやつは、とても美味しい。緋椀さまの結婚式の衣装についての話し合いに目を輝かせる作治さまは、大変に、その、可愛らしい。
「その被りものは、衣装部としては、その、少し、見栄えがよろしくないので、取って頂きたいのです」
とりあえず、伝えてみる。被りものをするにしても、こう、もう少し何か……。ああでも、他所から来られた方だから、手近な布というものも、準備するのが大変なのかもしれない。
「……今、私の髪は、人さまに晒せる状態ではございません。これを取った方が見苦しいのでございます」
「何があったんですか?」
見苦しい髪、とは散髪を失敗したのだろうか。散髪屋さんなら、紹介してあげることができる。皇城の使用人の身だしなみを整えるための美容師が、きちんといらっしゃるから。使用人は大勢いるので、整えてもらえる順番は決まっているが、臨時とはいえ新しく入った方だと言えば、すぐにでも対応してもらえるだろう。
「髪を……切られ……。首の、代わりと仰られるなら、いっそ首を……」
「へ?」
「生きて、このような、恥を……」
坂寄さんの目から、ぽろぽろと涙が零れる。
「な、何を仰ってるんです?髪なんて、また伸びてくるじゃないですか!首は、切られたらそれでお終いなんですよ!」
「けど。けど、髪が短いのは、罪人です。罪の証を晒して、のうのうと……」
罪の証?
「どういう経緯で、髪を?」
そこから、ぽつぽつと語られる坂寄さんのお話を聞いたけれど、よく分からなかった。
緋色殿下がお怒りを表されたというのなら、そうされるだけの事を、この人とこの人の主はされたのだろう。緋色殿下がわざわざ動かれるなんて、成人さま絡みのことに違いない。きっと何か、坂寄さんの知らない出来事も色々あるはず。その上で、髪を切るという判断をなされたのだ。
髪の毛で済んで、その後こちらで働くことができているのなら、お怒りという程のこともないんじゃないかな。きっと、坂寄さんをこちらに渡した後は、殿下は気にも止めていない。
髪なんて、また伸びる。いくらでも、やり直せるじゃないか。
それに。
「こちらでは、髪を短く切っている方なんて大勢いますし、何もおかしな事はありませんよ?」
返事が返ってきたので、ほっとする。少しきつい物言いだったかな、と反省した。せめて上から見下ろすのはやめようと、近くに腰を下ろす。衣装部は、座り仕事がしやすいように、あちらこちらに椅子と机が設置してある。涼乃絵さま用の品以外は、誰のものという訳でもなく自由に使用している。
とはいえ、衣装部専属の四人にはそれぞれ気に入りの場所があって、やりかけの仕事の荷物が積んであるのだけれど。ミシンは専用の部屋があり、お手伝いの方はそちらで作業をして頂くことが多い。手縫いの手伝いは、非常にまれだ。自分たちでやらないと納得の出来にならない事が多いため、あまり手伝いを頼まなくなったから。
デザインの依頼を受ける時の、お話を聞く応接セットのような立派なソファと机もあり、そちらは最近、よく差し入れを持って来てくださる成人さまの、ひと休みする場所にもなっている。成人さまを囲んで皆で食べるおやつは、とても美味しい。緋椀さまの結婚式の衣装についての話し合いに目を輝かせる作治さまは、大変に、その、可愛らしい。
「その被りものは、衣装部としては、その、少し、見栄えがよろしくないので、取って頂きたいのです」
とりあえず、伝えてみる。被りものをするにしても、こう、もう少し何か……。ああでも、他所から来られた方だから、手近な布というものも、準備するのが大変なのかもしれない。
「……今、私の髪は、人さまに晒せる状態ではございません。これを取った方が見苦しいのでございます」
「何があったんですか?」
見苦しい髪、とは散髪を失敗したのだろうか。散髪屋さんなら、紹介してあげることができる。皇城の使用人の身だしなみを整えるための美容師が、きちんといらっしゃるから。使用人は大勢いるので、整えてもらえる順番は決まっているが、臨時とはいえ新しく入った方だと言えば、すぐにでも対応してもらえるだろう。
「髪を……切られ……。首の、代わりと仰られるなら、いっそ首を……」
「へ?」
「生きて、このような、恥を……」
坂寄さんの目から、ぽろぽろと涙が零れる。
「な、何を仰ってるんです?髪なんて、また伸びてくるじゃないですか!首は、切られたらそれでお終いなんですよ!」
「けど。けど、髪が短いのは、罪人です。罪の証を晒して、のうのうと……」
罪の証?
「どういう経緯で、髪を?」
そこから、ぽつぽつと語られる坂寄さんのお話を聞いたけれど、よく分からなかった。
緋色殿下がお怒りを表されたというのなら、そうされるだけの事を、この人とこの人の主はされたのだろう。緋色殿下がわざわざ動かれるなんて、成人さま絡みのことに違いない。きっと何か、坂寄さんの知らない出来事も色々あるはず。その上で、髪を切るという判断をなされたのだ。
髪の毛で済んで、その後こちらで働くことができているのなら、お怒りという程のこともないんじゃないかな。きっと、坂寄さんをこちらに渡した後は、殿下は気にも止めていない。
髪なんて、また伸びる。いくらでも、やり直せるじゃないか。
それに。
「こちらでは、髪を短く切っている方なんて大勢いますし、何もおかしな事はありませんよ?」
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