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第七章 冠婚葬祭
114 知っている 緋色
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「殿下……」
弐角。そんな声を出すな。適当なことをしたつもりは無い。
「お前たちにとっての髪の毛の大切さは知っている」
うちで、一二三だった三郎が髪を差し出した時に、お前は震えていただろう?お前だけじゃない。半助も才蔵も震えていた。壱臣は、髪を切る三郎を見ていられずに目を逸らした。
覚えている。忘れはしない。髪の短くなった三郎が、それを酷く恥じていたことも。
「はい」
「だから、首の代わりに貰っておく」
「はい」
前回も、今回も、決して目を逸らさないお前だから。だから、後は任せることができる。
できるだろ?
「若様」
震える声を上げたのは、六車大角。うつむいた顔に、はらはらと短くなった髪がかかり表情を隠している。かたかたと震える太った体は、隠しようがないが。
「私は、家督を息子に譲り、隠居致したく、思います。お許しを頂きたく……」
震えながらも言い切ったのは見事だ。
「許す」
「は。ご温情、感謝、いたします……」
「これまでの献身、感謝しとる」
「は。若の晴れ姿をこの目で見られなかったこと、だけが、まことに、口惜しゅう……」
ふ、と弐角が小さく笑みを零した。
「写真を送ろう」
「…………楽しみに、しております」
膝の上の成人が、軽く首を傾げた。なんで見れないの?などと思っているのだろうな。弐角の結婚式も家督相続の儀も、今から行われるのだし、大角は生きている。いくらでも、見に行けばいい。
だが、それは叶わぬ。
髪が無い、というのは、彼の国では、それが手入れできるだけの財も余裕もない者か、罪人。高位である程、髪が無いことは、何か罪を犯したか、髪を切られることを防げなかったことを意味する。その姿を権力の中枢で晒すことなど、できるものでは無いだろう。せっかく六車が手に入れた、筆頭家臣の座を自ら手放す暴挙だ。
息子がいるというのなら、家督を譲ったと言って自らは姿を隠すしかあるまい。違和感を持たれぬ程度に髪が伸びるまで、数年は、表舞台に姿を現すことも叶わぬだろう。
「若様……。何故……」
「椿。防げなんだな」
「あ……」
「殿下は、きちんと温情をくださった。見てみ。本気なら、俺の髪も無かった」
お前なら、髪が短くなっても上に立つのだろう?その姿も見てみたい気はしたが、いらぬ苦労を背負わせたい訳でもない。遊ぶ時間が少なくなるしな。とはいえ、二人防いだのだから才蔵はよくやった。
褒美に、二人で寝ていくといい。
成人が、その目の下の隈を消したくてうずうずしてるから。
弐角。そんな声を出すな。適当なことをしたつもりは無い。
「お前たちにとっての髪の毛の大切さは知っている」
うちで、一二三だった三郎が髪を差し出した時に、お前は震えていただろう?お前だけじゃない。半助も才蔵も震えていた。壱臣は、髪を切る三郎を見ていられずに目を逸らした。
覚えている。忘れはしない。髪の短くなった三郎が、それを酷く恥じていたことも。
「はい」
「だから、首の代わりに貰っておく」
「はい」
前回も、今回も、決して目を逸らさないお前だから。だから、後は任せることができる。
できるだろ?
「若様」
震える声を上げたのは、六車大角。うつむいた顔に、はらはらと短くなった髪がかかり表情を隠している。かたかたと震える太った体は、隠しようがないが。
「私は、家督を息子に譲り、隠居致したく、思います。お許しを頂きたく……」
震えながらも言い切ったのは見事だ。
「許す」
「は。ご温情、感謝、いたします……」
「これまでの献身、感謝しとる」
「は。若の晴れ姿をこの目で見られなかったこと、だけが、まことに、口惜しゅう……」
ふ、と弐角が小さく笑みを零した。
「写真を送ろう」
「…………楽しみに、しております」
膝の上の成人が、軽く首を傾げた。なんで見れないの?などと思っているのだろうな。弐角の結婚式も家督相続の儀も、今から行われるのだし、大角は生きている。いくらでも、見に行けばいい。
だが、それは叶わぬ。
髪が無い、というのは、彼の国では、それが手入れできるだけの財も余裕もない者か、罪人。高位である程、髪が無いことは、何か罪を犯したか、髪を切られることを防げなかったことを意味する。その姿を権力の中枢で晒すことなど、できるものでは無いだろう。せっかく六車が手に入れた、筆頭家臣の座を自ら手放す暴挙だ。
息子がいるというのなら、家督を譲ったと言って自らは姿を隠すしかあるまい。違和感を持たれぬ程度に髪が伸びるまで、数年は、表舞台に姿を現すことも叶わぬだろう。
「若様……。何故……」
「椿。防げなんだな」
「あ……」
「殿下は、きちんと温情をくださった。見てみ。本気なら、俺の髪も無かった」
お前なら、髪が短くなっても上に立つのだろう?その姿も見てみたい気はしたが、いらぬ苦労を背負わせたい訳でもない。遊ぶ時間が少なくなるしな。とはいえ、二人防いだのだから才蔵はよくやった。
褒美に、二人で寝ていくといい。
成人が、その目の下の隈を消したくてうずうずしてるから。
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