【完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

111 護衛  成人

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「あの二人からは、お前への敬意が微塵も感じられん」

 俺への敬意?
 
「お前は、俺の伴侶だ。俺へと敬意を向けるのであれば、同じようにお前のことも大事にせねばならん」
「ふーん……」

 緋色ひいろは、立派で格好良いし、生まれた時から皇子さまだから、皆敬意を払って当たり前。でも、俺も?

「俺の唯一無二だ。俺の最も大切なものだ。俺へ敬意を向けるのであれば、俺の最も大切なものへも敬意を向けるのは、当たり前だろう?」
「うーん。うん」

 緋色ひいろのことが大事なら、緋色ひいろの大事にしてるものも大事にしろ、ってこと?
 
「逆に考えてみろ。お前に敬意を抱いている奴が、俺のことを蔑ろにしたらどうだ?」
「ないがしろ」
「軽くみることだ。大した事ない奴だと侮る……ああ、ええと、馬鹿にすることだ」
「えええ?緋色ひいろをを?」

 何それ。そんな訳ない!緋色ひいろは誰より格好良くて、一番じゃないけど強くて、字も綺麗だし、たこ焼きも上手に作れるし、難しい仕事もできるし、とにかく何でもできる。笑ってる顔も怒ってる顔も、困ってる顔も格好良い。誰より大好きな俺の大切な人。
 それを、軽くみる?大した事ない奴だと馬鹿にする?
 信じられない。
 ちょっと許せない。
 俺の一番大切な人をそんな風に扱われたら悲しい。

「そういうことだ」

 緋色ひいろは、俺を膝の上に上げて、おでこにちゅってした。

「分かった」

 俺は、緋色ひいろの膝の上で椿つばき坂寄さかきを見る。

緋色ひいろを軽くみられたら悲しい。俺の大事な人だから、そんなことしないで」
「そのような!そのような事は決して!」

 坂寄さかきが包拳礼をしながら大きな声を上げる。

「同じことだ。お前は、成人なるひとにそうした。つまり、俺へのその礼も、表面だけだということだ」
「いいえ!いいえ、決して!決してそのような事はしておりませぬ!」
「尽くしたいあるじがいることは否定せん。だが、身分というものが存在する以上、それを曲げねばならぬ時がある。お前はその場面で、成人なるひと椿つばきの下に置いた。分からぬか?無かったか?それが、罪だ」
「あ……。ああ……」

 坂寄さかきは包拳礼のまま項垂れてしまった。顔が見えない。でも今度は、違うと言わなかった。六車むぐるま大角だいかく梅香うめかがまた、包拳礼をして頭を下げた。

椿つばき
「は」
成人なるひとに弱いと言われたでは納得いかぬと言うなら、皆で言おう」
「は?」
「お前は、弱い。仕える者を大事に思うならば、護衛の邪魔をするのはやめることだ」
「う、あ……」
弐角にかく
「は。六車むぐるま椿つばき。技量が足りぬと薄々感じながら、好きな女の願いを叶えとうて、お前を婚約者の護衛と任命したこと、俺は後悔しとる。大切な者の命を危険に晒しているんやと、気付くべきやった。俺も、反省しとる。申し訳ない。今後、お前を護衛として雇うことは、決して無い。こちらの手違いとして補償金は支払う故、その道は諦めて生きてほしい」
「あ、ああ……」
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「何故、他人の命を預かれると思ったのか、不思議でございます」
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「俺?!」

 常陸丸ひたちまるは、ははっと笑った。

「うーん。そうだな。あんたは、自分でない誰かのために強くなろうと思ったことが無いだろ?そんな人間に、誰かを守ることはできないんだよ」

 ああ、そうか。
 常陸丸ひたちまるは、緋色ひいろを守りたくて強くなった。だから、緋色ひいろの側にいる時、一番強い。
 これが、護衛だ。
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