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第七章 冠婚葬祭
110 私は弱くない……でも、 椿
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「はじめから、だな。初めて会った時からずっとだ」
「ずっと……?」
緋色殿下と成人殿下のお言葉に、私は身を震わせる。
何でや。なんで?
礼は、常に尽くしてきた。しなくてはいけない場面では、きちんと包拳礼を取っていた。そやけど、例外はある。私は、九鬼の次期当主の婚約者であられる橙々さまの護衛で、その業務のためには、ある程度の例外を認められとるからや。
才蔵が、常に包拳礼を取っているか?武器を手放すか?
答えは否や。
そんな訳ない。
それでは、主を守れへんのやから。
緋色殿下の護衛かて、成人殿下の護衛かて、いつも礼を取っとる訳やない。
それこそ、初めて会うた時にも、若様や橙々さまの前で平伏してへんかった。こちらが包拳礼を取るのを、殿下方と共に見とっただけや。護衛やから、相手の身分が高うても、戦闘態勢に入れん格好になったらあかん言うことやろ?
主が、礼を尽くしとる時にはそれに倣うけれど、こうして礼を解いて話を始めた時には、こちらは護衛の任務をしとらなあかんはずや。
皆、そうしとる。
不敬やなんて……。不敬やなんて言われるようなことは、何もしとらん。表向きは。
ただ、心のうちでは別や。弱い弱いと言われて納得出来る訳がない。今まで生きてきて、ずっと、強い、と言われてきた。その辺の男では手も足も出ませんなあ、て。実際、そうやった。私と結婚したい、て言うてきた男を三人、手合いで負かして追い払った。
父は、一生独り身でおるつもりか、て怒っとったけど、自分より弱い男の嫁になるなんて、ほんまに嫌やった。それなら、一人で身を立てようと思うとった所に、橙々さまの専属護衛にならんか、とのありがたい申し出や。弱かったら、そんな申し出がくる訳がない。
やのに、この、鍛えたことも無さそうな、細い、片手と片目を失っとる成人殿下が、私を弱いと言い募る。
弱い証が、じゃんけんに勝てんこと?なんや、それ。からくりを聞いても、納得はいかん。あげく、私を護衛から外すんは、橙々のためやと言う。私が、守っとったのに。私が、大切な友人の命を守っとったのに。
けど。
水瀬……さんに、そっと肩に置かれた手で、私は身動き一つ取れんくなった。
この人は、掃除や洗濯をする使用人。その横に立つ女の子も、背の高い水瀬さんのええ人も。中年の女の人も、男の人も。気配を全く感じんかったのに、突然部屋の中に現れた幾人もの人間。厨房の、一番若い料理人までおる。料理人……?なんなん?皆、この家の奥向きをする使用人やろ?
私が何一つ動けん間に、才蔵と父上たちの護衛は構えた。主の盾となる位置で。
ここに、橙々さまがおったら?
私は……。
座ってたからや、と囁く声。
立っとっても、きっと何もできんかった、と浮かぶ考え。
湯呑みが、いつの間にか机に置かれていることに気付いて愕然とする。
動じた様子もなく、若様は茶をすすり……。
気配。そう、気配がない。いや、在る。それは、どこに?どう、在る?何人いる?
……気配を読む、てどうするんやったっけ。
「ずっと……?」
緋色殿下と成人殿下のお言葉に、私は身を震わせる。
何でや。なんで?
礼は、常に尽くしてきた。しなくてはいけない場面では、きちんと包拳礼を取っていた。そやけど、例外はある。私は、九鬼の次期当主の婚約者であられる橙々さまの護衛で、その業務のためには、ある程度の例外を認められとるからや。
才蔵が、常に包拳礼を取っているか?武器を手放すか?
答えは否や。
そんな訳ない。
それでは、主を守れへんのやから。
緋色殿下の護衛かて、成人殿下の護衛かて、いつも礼を取っとる訳やない。
それこそ、初めて会うた時にも、若様や橙々さまの前で平伏してへんかった。こちらが包拳礼を取るのを、殿下方と共に見とっただけや。護衛やから、相手の身分が高うても、戦闘態勢に入れん格好になったらあかん言うことやろ?
主が、礼を尽くしとる時にはそれに倣うけれど、こうして礼を解いて話を始めた時には、こちらは護衛の任務をしとらなあかんはずや。
皆、そうしとる。
不敬やなんて……。不敬やなんて言われるようなことは、何もしとらん。表向きは。
ただ、心のうちでは別や。弱い弱いと言われて納得出来る訳がない。今まで生きてきて、ずっと、強い、と言われてきた。その辺の男では手も足も出ませんなあ、て。実際、そうやった。私と結婚したい、て言うてきた男を三人、手合いで負かして追い払った。
父は、一生独り身でおるつもりか、て怒っとったけど、自分より弱い男の嫁になるなんて、ほんまに嫌やった。それなら、一人で身を立てようと思うとった所に、橙々さまの専属護衛にならんか、とのありがたい申し出や。弱かったら、そんな申し出がくる訳がない。
やのに、この、鍛えたことも無さそうな、細い、片手と片目を失っとる成人殿下が、私を弱いと言い募る。
弱い証が、じゃんけんに勝てんこと?なんや、それ。からくりを聞いても、納得はいかん。あげく、私を護衛から外すんは、橙々のためやと言う。私が、守っとったのに。私が、大切な友人の命を守っとったのに。
けど。
水瀬……さんに、そっと肩に置かれた手で、私は身動き一つ取れんくなった。
この人は、掃除や洗濯をする使用人。その横に立つ女の子も、背の高い水瀬さんのええ人も。中年の女の人も、男の人も。気配を全く感じんかったのに、突然部屋の中に現れた幾人もの人間。厨房の、一番若い料理人までおる。料理人……?なんなん?皆、この家の奥向きをする使用人やろ?
私が何一つ動けん間に、才蔵と父上たちの護衛は構えた。主の盾となる位置で。
ここに、橙々さまがおったら?
私は……。
座ってたからや、と囁く声。
立っとっても、きっと何もできんかった、と浮かぶ考え。
湯呑みが、いつの間にか机に置かれていることに気付いて愕然とする。
動じた様子もなく、若様は茶をすすり……。
気配。そう、気配がない。いや、在る。それは、どこに?どう、在る?何人いる?
……気配を読む、てどうするんやったっけ。
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