809 / 1,321
第七章 冠婚葬祭
98 でしょうね 祈里
しおりを挟む
「祈里、こんにちは」
「成人さま、こんにちは。半助さま、こんにちは」
ぺこりと頭を下げれば、成人さまと、一緒に入室された護衛の半助さまも、ぺこりと頭を下げて挨拶を返してくださった。
包拳礼はいらないよ、と仰られたので、普通の挨拶をする事にしたら、成人さまにとても喜んで頂けている。もちろん、この部屋の中限定のこと。それでも、お互いに笑顔で最高だ。
けれど、私の横で坂寄は慌てて立ち上がり、包拳礼で頭を下げた。
「車尾坂寄が、成人殿下にご挨拶申し上げます」
「うん、こんにちは。もういいよ」
成人さまは、挨拶を聞いてすぐにそう仰られた。
次からはいらないよ、と続かなかったのは珍しい。
「はい。すみません」
「それは、何のすみません?」
「は、あの。いえ……。すみま……、あ……」
「うーん?まあ、いいや。お仕事、できた?」
成人さまにしては、あっさり。
これ何?
どうして?
何で?
何にでも興味を持たれて、分かるまで、問われたり調べられたりすることが多いのに、今回はすぐに終わったな、と思いながら、少し場を離れ、お茶を手早く準備する。
成人さま用のお茶を、冷ましておかなくては。
「あの。何とか手は進めておりますが、その……お役に立てておりますかどうか……」
坂寄さんが成人さまに伝えた言葉に、びっくりした。
「お役に立てておりますか、なんてそんな!坂寄さんの手縫いは、非常にお早くて綺麗なんですよー」
運んできたお茶を来客用の机に置いて蓋を開けながら、慌てて成人さまにお伝えする。さっき、あれだけ、縫い目が素敵だと坂寄さんにお伝えしたのに、よく聞こえていなかったんだろうか。
やはり、具合が悪いのでは?
心配になって、坂寄さんに近寄り顔を覗き込もうとすると、同じ仕草の成人さまと、頭がこつんと触れ合った。
「ありゃ。成人さま、すみません」
「祈里、ごめーん」
ふふ、と笑い合う。こうした時に、成人さまが本当に楽しそうにされるから、私も楽しい。
本当に危ない時は、護衛の方、今なら半助さまが止めてくださると分かっているから、私はいつも安心して、成人さまのお側にいることができるのだ。
「これは、ぶつかってごめんね、のすみません」
ああ。先ほどの坂寄の、すみませんへの興味は、まだ続いてはいたようだ。
「はい、そうです」
くすりと笑えば、うんうんと頷いて坂寄さんに向きなおられた。成人さまが近くて、坂寄さんが固まってしまっている。
「坂寄、目の下が黒い。お昼寝しなきゃ」
あ、やっぱり?やっぱり、そうなりましたか。
「成人さま、こんにちは。半助さま、こんにちは」
ぺこりと頭を下げれば、成人さまと、一緒に入室された護衛の半助さまも、ぺこりと頭を下げて挨拶を返してくださった。
包拳礼はいらないよ、と仰られたので、普通の挨拶をする事にしたら、成人さまにとても喜んで頂けている。もちろん、この部屋の中限定のこと。それでも、お互いに笑顔で最高だ。
けれど、私の横で坂寄は慌てて立ち上がり、包拳礼で頭を下げた。
「車尾坂寄が、成人殿下にご挨拶申し上げます」
「うん、こんにちは。もういいよ」
成人さまは、挨拶を聞いてすぐにそう仰られた。
次からはいらないよ、と続かなかったのは珍しい。
「はい。すみません」
「それは、何のすみません?」
「は、あの。いえ……。すみま……、あ……」
「うーん?まあ、いいや。お仕事、できた?」
成人さまにしては、あっさり。
これ何?
どうして?
何で?
何にでも興味を持たれて、分かるまで、問われたり調べられたりすることが多いのに、今回はすぐに終わったな、と思いながら、少し場を離れ、お茶を手早く準備する。
成人さま用のお茶を、冷ましておかなくては。
「あの。何とか手は進めておりますが、その……お役に立てておりますかどうか……」
坂寄さんが成人さまに伝えた言葉に、びっくりした。
「お役に立てておりますか、なんてそんな!坂寄さんの手縫いは、非常にお早くて綺麗なんですよー」
運んできたお茶を来客用の机に置いて蓋を開けながら、慌てて成人さまにお伝えする。さっき、あれだけ、縫い目が素敵だと坂寄さんにお伝えしたのに、よく聞こえていなかったんだろうか。
やはり、具合が悪いのでは?
心配になって、坂寄さんに近寄り顔を覗き込もうとすると、同じ仕草の成人さまと、頭がこつんと触れ合った。
「ありゃ。成人さま、すみません」
「祈里、ごめーん」
ふふ、と笑い合う。こうした時に、成人さまが本当に楽しそうにされるから、私も楽しい。
本当に危ない時は、護衛の方、今なら半助さまが止めてくださると分かっているから、私はいつも安心して、成人さまのお側にいることができるのだ。
「これは、ぶつかってごめんね、のすみません」
ああ。先ほどの坂寄の、すみませんへの興味は、まだ続いてはいたようだ。
「はい、そうです」
くすりと笑えば、うんうんと頷いて坂寄さんに向きなおられた。成人さまが近くて、坂寄さんが固まってしまっている。
「坂寄、目の下が黒い。お昼寝しなきゃ」
あ、やっぱり?やっぱり、そうなりましたか。
421
お気に入りに追加
5,083
あなたにおすすめの小説
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる