【完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

98 でしょうね  祈里

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祈里いのり、こんにちは」
成人なるひとさま、こんにちは。半助はんすけさま、こんにちは」

 ぺこりと頭を下げれば、成人なるひとさまと、一緒に入室された護衛の半助はんすけさまも、ぺこりと頭を下げて挨拶を返してくださった。
 包拳礼はいらないよ、と仰られたので、普通の挨拶をする事にしたら、成人なるひとさまにとても喜んで頂けている。もちろん、この部屋の中限定のこと。それでも、お互いに笑顔で最高だ。
 けれど、私の横で坂寄さかきは慌てて立ち上がり、包拳礼で頭を下げた。

車尾くるまお坂寄さかきが、成人なるひと殿下にご挨拶申し上げます」
「うん、こんにちは。もういいよ」

 成人なるひとさまは、挨拶を聞いてすぐにそう仰られた。
 次からはいらないよ、と続かなかったのは珍しい。

「はい。すみません」
「それは、何のすみません?」
「は、あの。いえ……。すみま……、あ……」
「うーん?まあ、いいや。お仕事、できた?」

 成人なるひとさまにしては、あっさり。
 これ何?
 どうして?
 何で?
 何にでも興味を持たれて、分かるまで、問われたり調べられたりすることが多いのに、今回はすぐに終わったな、と思いながら、少し場を離れ、お茶を手早く準備する。
 成人なるひとさま用のお茶を、冷ましておかなくては。

「あの。何とか手は進めておりますが、その……お役に立てておりますかどうか……」

 坂寄さかきさんが成人なるひとさまに伝えた言葉に、びっくりした。

「お役に立てておりますか、なんてそんな!坂寄さかきさんの手縫いは、非常にお早くて綺麗なんですよー」

 運んできたお茶を来客用の机に置いて蓋を開けながら、慌てて成人なるひとさまにお伝えする。さっき、あれだけ、縫い目が素敵だと坂寄さかきさんにお伝えしたのに、よく聞こえていなかったんだろうか。
 やはり、具合が悪いのでは?
 心配になって、坂寄さかきさんに近寄り顔を覗き込もうとすると、同じ仕草の成人なるひとさまと、頭がこつんと触れ合った。

「ありゃ。成人なるひとさま、すみません」
祈里いのり、ごめーん」

 ふふ、と笑い合う。こうした時に、成人なるひとさまが本当に楽しそうにされるから、私も楽しい。
 本当に危ない時は、護衛の方、今なら半助はんすけさまが止めてくださると分かっているから、私はいつも安心して、成人なるひとさまのお側にいることができるのだ。

「これは、ぶつかってごめんね、のすみません」

 ああ。先ほどの坂寄さかきの、すみませんへの興味は、まだ続いてはいたようだ。

「はい、そうです」
 
 くすりと笑えば、うんうんと頷いて坂寄さかきさんに向きなおられた。成人なるひとさまが近くて、坂寄さかきさんが固まってしまっている。

坂寄さかき、目の下が黒い。お昼寝しなきゃ」

 あ、やっぱり?やっぱり、そうなりましたか。

 
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