【完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

91 何に対しての謝罪か  成人

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緋色ひいろ殿下。この度は、大変にご迷惑をおかけして申し訳なく……」

 椿つばきが、緋色ひいろに謝っている。

「それは、何に対しての謝罪だ?」
「体調を崩して休み、仕事に支障が出ました」
「支障は出ておらんな。お前はまだ、何の役にも立っていない」
「な……」
「謝罪すべき、考えるべきは、そこではない」
「え……」

 ただ謝ってちゃ駄目ってことだ。何に謝っているのか、ちゃんと分かっていないと意味がない。うん。
 戦闘人形ドールの時、謝れと言われて謝っていた。何にも意味は分かっていなかった。
 まあ、うん。考えてみたけど、何で謝らなくてはいけないのか分からないことばかり言われていたので、あの時はそれで良かったんじゃないかな。人では無かったし。でも今は、俺は人なので、間違ったら謝らなくてはならない。
 間違った時、相手を不快にさせた時、周囲に迷惑をかけた時。心配させた時も。
 色々ある。
 色々あって難しいけど、相手が怒っているから、とか、謝れって言われたから、とかそんなので謝っても、きっと相手は納得しない。ちゃんと考えて反省しないと、同じこと繰り返すよね。見可みかは、いっつもそうだ。
 七歳の見可みかは、これしてもいいかな、って考える前に、手が出ることが多い。危なかったら、それ駄目って誰かが素早く止めるんだけど、その言葉に反射的に謝っている。触ったら火傷するから、なんていう理由を説明して、何で駄目なのか聞いたら、もうしません、ってしっかり反省するんだけど、触ったら火傷するって知らなかったら、また触ろうとする。仕方無いよね、知らないんだもの。頭がいいから、ちゃんと言ったら分かるんだけど、まだ小さいから、やりたい気持ちが勝っちゃうことが多いんだって。俺の先生の青葉あおばが言ってた。一歳の末良すえよしも、まず手や口が出る。分からないことばかりだからね。子どもってそんなものらしい。
 少しづつ、説明されて覚えて、謝ることが少なくなっていく。
 椿つばきは謝罪を受け取ってもらえなくて困っているけれど、緋色ひいろは、説明する気は無いみたい。

「自分で考えることだ。仕事に戻れ」
「は、ははっ」

 困った声で、椿つばきが頭を下げた。緋色ひいろは、仕事の書類を持ち上げて目を通し始めてから、あ、と顔を上げた。

「侍女は帰しておくぞ」
「え……?」

 立ち上がりかけて固まった椿つばきにはもう構わずに、緋色ひいろは仕事に戻った。
 お熱の時、坂寄さかきにお世話してもらえて良かったね、椿つばき。すぐ元気になれた。椿つばきが元気になったから、坂寄さかきはおうちに帰る。当たり前だ。
 でも、侍女さんのお世話の仕方、もう少し近くで見たかったような気もするなあ。
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