【完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

90 椿の侍女さん  成人

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「あの。すみません」

 緋色ひいろが、椿つばきの侍女さんを呼んだ。侍女さんだ、侍女さん。誰か決まった女の人の、お世話をする人。侍女さんを雇えるのは偉くてお金持ちの人だけだから、椿つばきは偉くてお金持ちだったんだねえ。 
 ん?橙々だいだいの護衛なのに?護衛で、侍女さんや侍従さんを使ってる人は見たこと無かったなあ。
 俺は、そんなにたくさんの人を知ってる訳じゃないけど。
 男の人のお世話をするのは侍従さんって言う。朱実あけみ殿下の所にいる侍従さんの七伏ななふせの所にはたまに行く。お仕事してる所を見て、休憩の時にお話して帰ったりする。
 赤璃あかりさまの所の侍女の朝桐あさぎりも好き。美味しいお茶を淹れてくれる。
 雫石しずく母さまの所の侍女さんは、表に出てるのはいつも一人。んー?侍女さんなのかな?強くて、気配も消せるから護衛かな?足音もあまり無いし。でも、お茶を淹れたり、アイスクリームを持ってきてくれるから、たぶん侍女さん。常陸丸ひたちまるみたいに何役もしてるのかもね。
 一条の屋敷にもいる。お茶やお菓子を運んで来てくれる人。
 皆、堂々として、穏やかにちょっと笑った顔でお仕事してることが多いんだけど。
 椿つばきの侍女さんは、うちに来た時からずっと謝っていて、何をする時もまず謝る。何がすみませんなのかよく分からないけど、話し始めるときに絶対、すみませんって言う。何だか困ったような顔で、動き回る。俺の知ってる侍女や侍従と、ちょっと違う。

「お湯を頂いてもよろしいですか」
「いいよー」
「ひえ。あ、いえ、失礼致しました、成人なるひと殿下。すみません」

 こんな感じ。
 俺、別に気配消してなかったけど、後ろにいるの分からなかったかな。驚かせてごめんね。

「何がすみません?」
「え?」
「何で謝るの?」
「あ、ああ。いえ。姫様が、大変にご迷惑をおかけしたとお聞きしましたので」

 ん?

「姫様……?」

 あ、乙羽おとわがそう呼ばれている時ある。呼び方の一つだ。

「あ、いえ、その、私のあるじです。椿つばきさまが、ご迷惑をおかけ致しまして」
「ああ、うん」

 ご迷惑は、お掛けしてるかもなあ。水瀬みなせのお仕事、増えてるし。でも、新人さんに教えるのも大事な仕事って、前に広末ひろすえが言ってたよ。料理人とはまた違うのかもしれないけどさ。

「ですので、謝罪を」

 んー?何で侍女さんが?

「それは椿つばきが自分でするから、侍女さんはしなくていいんじゃない?」

 あ、名前。何かな?

「え、あ、しかし」
「あの。お名前聞いてなかった。俺は成人なるひとです」

 あ、さっき呼んでくれてたから知ってるか。ま、いいや。名前を伝えられるのって幸せだよね。年齢も、言っておこうかな?

「十八歳です!」
「え?十八……?あ、いえ。その、私は坂寄さかきと申します。三十六でございます」

 ふんふん。
 どのくらいうちにいるのか分からないけど、どうぞよろしくね。
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