793 / 1,321
第七章 冠婚葬祭
82 使用人しかいない城? 椿
しおりを挟む
「おはようございます、殿下。成人さま」
「おはようございます」
「おはよう!」
「おう……」
幾つかの静かな挨拶の声が上がり、少し掠れた高い声が明るく返事を返す。成人さまと、それから、不機嫌な緋色殿下の声。何か、殿下の機嫌を損ねるようなことが朝からあったのやろうか。
そう思って、恐る恐るそちらへ視線をやったけれど、挨拶をした、使用人と分かるお仕着せを着た者たちは、気にした様子も見せずに食堂へと入っていく。
今日は昨日と違って、とても分かりやすい。
女性は、水瀬さんと同じような、白い襟付きシャツに紺色の動きやすそうなスカート、膝までの靴下、脱ぎ履きしやすそうな室内ばき。男性も、上は同じで、下が紺色のズボン。
食堂は畳敷きなので、室内ばきは脱いで中へと入る。昔ながらの様式と、新しい様式の使いやすい所を取り入れた、暮らしやすい宮や。服装も然り。
お仕着せの者の他には、軍服の者と、普段着のように見える同じ服装の男女がちらほらと。昨日、挨拶をした九条の方々も、ほとんどの方がお仕着せを着ていた。
使用人と同じ……?
何でやろ。それなりの服装を誂えたりはしないんやろうか。筆頭九家であるというのに。……殿下以外は皆、殿下に仕える使用人であるいうことなんやろか。
よく見ると成人殿下も、お仕着せと似た仕様の服装だった。シャツは同じ形で、襟の縁に赤い色がさり気なく入っている。尊き赤がその身分を示してはいるが、お仕着せか……。紺色のズボンは半丈で、女性たちと同じような靴下を履いていた。
殿下は、軍服。黒の軍服の襟に赤い線。これは、近衛の服や無いやろか?
「おはようございます」
人が途切れるのを待って、包拳礼を取る。
「おはよ。できた?」
成人殿下から、明るい声が返ってきた。
できた?とは何のことやろ。
「この宮にいる間は、包拳礼は不要だ」
首を傾げていると、変わらず不機嫌な殿下の声が降ってきて、身を固くする。
「は。申し訳ございません」
そういえば、昨日、そう言われていた。
「殿下、おはようございます。相変わらず、寝起きが悪いなあ。新入りさんが怖がってますよ」
陽気な声に顔を上げれば、近衛の制服が見えた。常陸丸さんにしては、細く小柄な……。
「泉門院力丸です。はじめまして」
「は、はじめまして。六車椿です」
「聞いてる。新しい下働きなんだって?頑張って」
同じ名字、よく似た顔。近衛の制服……。
「力丸、おはよう」
「おはよ、成人。昨日まで旅行してたけど、しんどくないか?」
「元気」
「なら、良かった。無理すんなよ」
「うん」
突然、殿下が力丸さんの頭を軽く叩いた。
「いてっ。何ですか」
「俺は眠い」
「それは、いつものことでしょ」
「今日も休むかなー」
「あーはいはい、どうぞどうぞ」
ぱしん。
「いてっ。兄上まで何だよ」
また横から別の手が伸びて、力丸さんの頭を叩く。いつの間にこんな近くに?この人は、昨日共に行動していた間は、常に気配があったというのに……!
「いい加減なこと言ってんなよ、力丸。休めるわけないだろー」
「ちっ」
「殿下、舌打ちしないでください」
「皆、お仕事がんばろー」
成人殿下が明るく言って、緋色殿下を引っ張って食堂へと入っていった。
この兄弟と殿下は、仲が良いのやな。
できた?の意味は、聞けんままやった。
「おはようございます」
「おはよう!」
「おう……」
幾つかの静かな挨拶の声が上がり、少し掠れた高い声が明るく返事を返す。成人さまと、それから、不機嫌な緋色殿下の声。何か、殿下の機嫌を損ねるようなことが朝からあったのやろうか。
そう思って、恐る恐るそちらへ視線をやったけれど、挨拶をした、使用人と分かるお仕着せを着た者たちは、気にした様子も見せずに食堂へと入っていく。
今日は昨日と違って、とても分かりやすい。
女性は、水瀬さんと同じような、白い襟付きシャツに紺色の動きやすそうなスカート、膝までの靴下、脱ぎ履きしやすそうな室内ばき。男性も、上は同じで、下が紺色のズボン。
食堂は畳敷きなので、室内ばきは脱いで中へと入る。昔ながらの様式と、新しい様式の使いやすい所を取り入れた、暮らしやすい宮や。服装も然り。
お仕着せの者の他には、軍服の者と、普段着のように見える同じ服装の男女がちらほらと。昨日、挨拶をした九条の方々も、ほとんどの方がお仕着せを着ていた。
使用人と同じ……?
何でやろ。それなりの服装を誂えたりはしないんやろうか。筆頭九家であるというのに。……殿下以外は皆、殿下に仕える使用人であるいうことなんやろか。
よく見ると成人殿下も、お仕着せと似た仕様の服装だった。シャツは同じ形で、襟の縁に赤い色がさり気なく入っている。尊き赤がその身分を示してはいるが、お仕着せか……。紺色のズボンは半丈で、女性たちと同じような靴下を履いていた。
殿下は、軍服。黒の軍服の襟に赤い線。これは、近衛の服や無いやろか?
「おはようございます」
人が途切れるのを待って、包拳礼を取る。
「おはよ。できた?」
成人殿下から、明るい声が返ってきた。
できた?とは何のことやろ。
「この宮にいる間は、包拳礼は不要だ」
首を傾げていると、変わらず不機嫌な殿下の声が降ってきて、身を固くする。
「は。申し訳ございません」
そういえば、昨日、そう言われていた。
「殿下、おはようございます。相変わらず、寝起きが悪いなあ。新入りさんが怖がってますよ」
陽気な声に顔を上げれば、近衛の制服が見えた。常陸丸さんにしては、細く小柄な……。
「泉門院力丸です。はじめまして」
「は、はじめまして。六車椿です」
「聞いてる。新しい下働きなんだって?頑張って」
同じ名字、よく似た顔。近衛の制服……。
「力丸、おはよう」
「おはよ、成人。昨日まで旅行してたけど、しんどくないか?」
「元気」
「なら、良かった。無理すんなよ」
「うん」
突然、殿下が力丸さんの頭を軽く叩いた。
「いてっ。何ですか」
「俺は眠い」
「それは、いつものことでしょ」
「今日も休むかなー」
「あーはいはい、どうぞどうぞ」
ぱしん。
「いてっ。兄上まで何だよ」
また横から別の手が伸びて、力丸さんの頭を叩く。いつの間にこんな近くに?この人は、昨日共に行動していた間は、常に気配があったというのに……!
「いい加減なこと言ってんなよ、力丸。休めるわけないだろー」
「ちっ」
「殿下、舌打ちしないでください」
「皆、お仕事がんばろー」
成人殿下が明るく言って、緋色殿下を引っ張って食堂へと入っていった。
この兄弟と殿下は、仲が良いのやな。
できた?の意味は、聞けんままやった。
446
お気に入りに追加
5,083
あなたにおすすめの小説
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる