【完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

81 離宮の使用人  椿

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 朝食へと足を向けることができたのは、かなり時間が経ってからやった。鍛錬をした訳でもないのに、朝早くから何も摂らずに動いた腹が、ぐうと鳴る。
 水瀬みなせさんは、声を荒らげることも無く、私の間違いをどこまでも淡々と指摘した。自らの作業もしつつ、私の間違いも見逃さず、そして、決して手を貸してくれることは無い。大したことの無い作業やが、地味に手間のかかるもの。色味の仕分けはすぐに習得したが、これは機械には入れず手で洗う品やとか、そういう仕分けは、何度言われてもよう分からんかった。生地が違うのやろうが、手触りの良い品は多い。全て、手洗いせなあかんようにも思える。
 二つの大きな洗濯機は、これも、一つが殿下専用などということはなく、白いものと柄物に分けて、入る量を入れて回していた。洗濯機の存在は知っていたが、こうして動いている所を見るのは初めてや。便利な機械やという話やったが、人の手は、結構かかるもんなんやな。
 大量の洗濯物を仕分けている間に、ぴーぴーと音が鳴り、機械が止まる。蓋を開けた水瀬みなせさんが、機械に手を突っ込んで隣の小さな穴の方へ洗濯物を移した。水を含んだ衣類はかなりな重量に見えるが、細腕で軽々と、大量に持ち上げる。手早く移してぎゅうぎゅうと押さえ、蓋をしてまた何かダイアルを回した。ごごご、と音を立てる機械を気にしもせず、次の洗濯物を今、洗濯物を取り出した方へと放り込んだ。素早く、見事な手並みに思わずそちらを見ていると、

「手が止まっていますよ」

  と、注意を受ける。一体、どこに目が付いているものか。水瀬みなせさんはそう言いつつ、もう一台の洗濯機に移動した。動きに無駄がなく、音もない。
 音もない?
 たかが洗濯。
 洗濯をしている女使用人に、私は一体何を……?
 首を傾げつつ、私の所為で遅くなったであろう朝食へ向かうと、食堂ではすでに、大勢の人間が食事を摂っていた。
 大勢の……?
 どこにそのような……?

「朝食後は、洗濯物を干しましょう。そして、手洗い洗濯です。その後は掃除です」

 入口で戸惑う私に淡々と告げた水瀬みなせさんが、政巳まさみ……さんと合流して食堂へ入る。いつの間に、近くにおったのやろ……。昨日から、どうにも人の気配が読めない。
 そして、この二人はもしかして、良い仲なんやろうか……。

 
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