【完結】人形と皇子

第七章 冠婚葬祭

52 はしゃいでいいよ 成人

「成人なるひとさま。今日はお付き合い頂き、ありがとうございました」

　作治さくじは、おやつの時間にはきっちり話を終えて、衣装部を出てきた。
　気にしなくてもいいのに。俺のおやつは、あそこにいても出てくるから。俺がおうちに帰ってこなかったら、おやつをちゃんと食べているかを調べる人がいるんだろう、たぶん。いつの間にか、今日のおやつが届いていて、いる場所で食べてることがある。
　雫石しずく母さまの部屋なら、だいたいアイスクリームが出るから、それを食べて帰る。末良すえよしのおうちにいる時は、乙羽おとわと斑鹿乃むらかのの分も、離宮のその日のおやつが届いて、三人で食べる。末良すえよしのお昼寝中にこっそり。末良すえよしは小さすぎて同じものを食べられないから、見えない所で食べたりしてた。
　今は、末良すえよしも一緒のものが食べられるようになったから、末良すえよしの分も届く。だから、四人で食べる。末良すえよしは、お父さんの作るご飯やおやつが大好きだから大喜びで、一番たくさん食べる。もっとちょうだいって手を出す仕草が可愛くて、俺の分をあげたくなっちゃう。あげたら駄目って言われてるから、俺も無くなったよって言うために、大急ぎで食べるんだけど。あげたいけど、食べ過ぎてお腹が痛くなったら、大変だからね。俺も、おやつが少なくて痩せたら心配されるから、自分の分はちゃんと食べないといけないし。

「お話、できた？」
「ええ。大変に楽しかったです。少し、はしゃぎ過ぎました。申し訳ない」

　はしゃぐ。
　そう、それだ！見可みかが、楽しすぎて周りが見えなくなっている時に、緋椀ひまりや灯可とうかが言っていた。はしゃいでるなあって。はしゃぎ過ぎると怪我するよ、とか。もう少し、落ち着きなさい、とか。
　そうか、作治さくじは今日、はしゃいでいたんだ。
　でも、全然大丈夫。見可みかみたいに危ないことしてる訳じゃないし、あんなに楽しそうなのなら、はしゃいでていいと思う。

「いい！」
「え？」
「はしゃいで、いい」

　作治さくじは、少し目を見開いた後で、にこにこと笑った。

「そうですか」
「うん」
「いい歳をした大人が、恥ずかしいかと思ったのですが」
「大人は、はしゃいだら駄目？」
「......いえ。そういう決まりはありませんね」
「じゃあ、いい」
「はい」

　はしゃぐのは、楽しすぎて嬉しすぎる時でしょ？作治さくじは、緋椀ひまりとの結婚式が、楽しすぎて嬉しすぎるんだよね。
　なら、全力ではしゃいでいいと思う。