【完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

45 結婚式の招待状  成人

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 壱臣いちおみに、結婚式の招待状が届いた。九鬼くき弐角にかくの名前で。おお、弐角にかく、結婚するの?おおお。

「弟の結婚式やしなあ。行きたいんやけど……」
「休みは、いるだけ取ればいい。秋だろう?村次むらつぐの調理師免許試験も終わった後にあるんだから、問題ない」
「いや、殿下。そうやなくて、その……」
「結婚式は、出席者に羽織袴の者が多いんじゃないですか?」

 今日もまた、緋色ひいろの執務室で仕事をしていた睦峯むつみねが口を挟む。

「ああ、成る程」

 壱臣いちおみは子どもの頃、羽織袴姿の大人に囲まれて、髪の毛を無茶苦茶に切られた。九鬼くきの領地では、身分の高い人ほど、髪の毛を長く伸ばして綺麗に手入れをするのが普通らしい。初めて会った時の半助はんすけ三郎さぶろうも、髪の毛は長かった。壱臣いちおみは、おかしな風にぼさぼさと伸びているところと短いところがあった。今は、壱臣いちおみの髪の毛は肩の辺りで綺麗に切り揃えられていて、普段は括っている。髪の毛用の良い匂いの香油も付けていて、艶々で綺麗。頭皮に傷が付いて髪の毛が生えてこない所も、商店街にある髪の毛の店でちゃんと手入れしてもらって、見えないように工夫してあるから、もう大丈夫。
 今は大丈夫になった壱臣いちおみだけど、子どもの壱臣いちおみには、髪の毛を切られたのは、とんでもなく恐ろしい体験だった。だから、羽織袴の人が今も怖くて堪らないみたい。まだ、子どもの壱臣いちおみが大人の壱臣いちおみの中で、怖い怖いと泣いていて、羽織袴の人を見ると出てきてしまうんだって。生松いくまつが言ってた。
 俺も、夜にたまに泣いていたのは、そんな感じらしい。……俺は、もう治ったけど。たぶん。

「今回は祝いだけ送って、別の日に会いに行くんにしようかなあ。先がええか、後がええか……。また、考えてみます。殿下、もし、殿下と成人なるひとくんが出席されるんなら、祝い金を弐角にかくに渡すんをお願いしてもええですか?」
 「あの」

 壱臣いちおみが、とりあえず招待状を受け取って話を終わろうとしていたら、三郎さぶろうが口を挟んだ。
 珍しい。三郎さぶろうが、自分から話してくるなんて、珍しい。

かく兄上が、羽織袴の集団の中に兄上を呼ぶとは思えません」

 ん?そうか。
 弐角にかくは、壱臣いちおみが羽織袴が怖くて倒れたのを見ているもんね。
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