【完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

39 喜んで貰えると嬉しい  成人

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灯可とうか、おかえり!」

 何でか分からないけれど、見つかってしまっているなら隠れててもしょうがない。
 門番の人達が、おかえりなさいませ、と頭を下げて門を開けるのを、振り返りもせずに灯可とうかは飛び込んできた。俺も、大きな声でお出迎えする。お迎えするために、ここに居たしな。うん。合ってる。

「ああ。ああ、成人なるひとさまだ。成人なるひとさまがいた。嬉しい、嬉しいです。今日はどうされたのですか!」

 荒い息を吐きながら、灯可とうかは本当に嬉しそうに笑った。一気にお話して、ますます息が苦しくなって、ぜいぜい言っている。
 門を閉めるためにこちらを向いていた門番二人が、とても驚いた顔をして灯可とうかを見ていた。

「大丈夫?」
「はあ、はあ。はい。大丈夫です。嬉しくて。今日は、約束していなかったから」
「急に来て、ごめんね。茉璃まつりと約束してて」
「母上が?」
「うん。大事なお話」
「そうなんですね。それはもう、済まされたのですか?」
「うーん?うん。あの……」

 茉璃まつりと約束したんだけど、大事なお話は灯可とうか見可みかにするお話だから、用事はまだ終わっていない。でも、内緒なので、大事なお話は二人揃ってから言うので、言えない。
 んんー。
 どうしたらいい?

灯可とうかさま、おかえりなさいませ。まずは中へお入りになり、鞄を下ろされたら如何でしょう?」

 困っていたら、じいやが横から言ってくれた。
 灯可とうかは、一回ものすごくびっくりした顔をしてから、慌てて、いつもの、なんでも無い顔に戻す。
 びっくりしたよね、ごめんね。じいや、気配が無くて。意識して消されると、俺でも分かりにくい。
 そういえば灯可とうかは、一人で走って帰ってきた。見可みかは、友だちと帰ってきた。歩いている人は子どもだけ。近隣の家には、各家の前に門番がいて、その他に見守っている大人も立っているけど、それだけだ。学校は、護衛無しで行けるような場所なんだね。安全な場所。いいな、それ。

「ああ。すみません、成人なるひとさま。落ち着きが足りませんでした。ただいま帰りました。お迎え頂き、ありがとうございます」

 落ち着きなんて、足りなくていいのに。俺がいて嬉しいって言って貰えて、俺も嬉しかった!

「え、と。おかえり、灯可とうか。待ってた」
「はい。待ってて頂いて、嬉しいです。車が見えたから、もしかして、と思ったらもう、すっかり足が早くなってしまって」

 家の中へ入りながら、灯可とうかがお話してくれる。

「車?」
「はい。我が家の来客用の駐車場があるのです。そちらに車が停まっていて、ああ、お客様がいらしているのか、と見てみたら、お車に緋色ひいろ殿下の御紋が見えたので」

 俺の乗ってきた車に、そんな印が?知らなかった。え?俺がお出かけで使う車には、緋色ひいろの紋が付いてるの?

「殿下は、とても小さく目立たぬように付けられるのですが、それの位置を私は知っていたので」
「へええ」

 灯可とうかは相変わらず、小さいのに色々知ってて凄い。
 俺、知らなかったよ。
 後で、どこに付いてるか教えてね。
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