【完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

34 お呼ばれ  成人

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「こんにちは」
「ようこそいらっしゃいました、成人なるひとさま」

 一条のお屋敷は俺のおうちからすごく近くて、車じゃなくても来れたんじゃないかと思うくらいだった。ああでも、離宮から門までが遠いから無理なんだけど。門を出てからはすぐだった。だから灯可とうかは、俺のお部屋にすぐ遊びに来れるんだな。友だちのおうちが近いのっていいな。
 
茉璃まつり。大丈夫?」

 体調悪いって聞いていた茉璃まつりがお出迎えしてくれたので、びっくりした。

「はい。大丈夫ですよ」

 茉璃まつりはにこにこ笑っている。元気一杯じゃないけど、嬉しそう。

成人なるひとさまのお陰で、大丈夫なんです」

 あ……!

「ふふ。そう!そうなんですよ」

 やった。やったね。見可みかの赤ちゃんだ。赤ちゃん来たんだ!

「おめでとう。茉璃まつり、おめでとう」

 こんな時に言う言葉はもう知っている。赤ちゃんが来るのは、とてもとても嬉しいこと。嬉しい時には、たくさんのおめでとうを言うんだ。

「奥様。まずは中へ……」
「あら。あら、そうね。私ったら、こんな所で。すみません、成人なるひとさま」

 俺と茉璃まつりが広い玄関でにこにこ話していたら、後ろに立っていたおじいさんっぽい人に声を掛けられた。使用人かな。そんな感じの服だ。
 うわ、待っててくれたの。ごめんね。
 よく見ると、他にも女の人が二人ほど立って待っている。は、そうだ。俺のご挨拶。まだ、こんにちは、しか言ってない。

「あ、えーと。本日はお招き頂きまして、ありがとうございます。お邪魔します」

 頭を下げて、それから。

「これ、お土産です」

 広末ひろすえが持たせてくれたおやつを渡す。内緒のおやつ。悪阻つわりの時に、とっても食べやすいもの。
 お時間があれば、一条のお屋敷に遊びに来てくださいってお手紙をもらった時は、まだそうか分からなかったけど、もしかしてそうかもしれないと思って、悪阻つわりでも食べやすい食べ物を広末ひろすえにお願いしたんだ。
 俺は近寄って、冷たいそれを茉璃まつりに渡した。溶けないように、冷たい氷も一緒に入れてあるから入れ物まで冷たい。

「アイスだよ、アイスクリーム」

 お城でしか出しちゃ駄目な特別おやつだから、小さな声で伝える。

「まあ。よろしいのですか?」
「あのね、悪阻つわりの時に一番食べやすくて、栄養もあるんだって。でも内緒だから、茉璃まつりがこっそり食べてね」
「はい。はい……」

 茉璃まつりは、笑ってるのに泣きそうになった。

「しんどい?大丈夫?」
「いいえ。嬉しくて」
「ん?」
「あなたは、本当に……」

 茉璃まつりはアイスクリームを受け取ってくれながら、近寄っていた俺をぎゅっと一回抱っこしてくれた。
 
「ありがとうございます。成人なるひとさま。本当に、ありがとうございます」

 うん。
 喜んでもらえて、俺も嬉しい。
 
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