【完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

30 色んな朱実殿下  成人

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「生涯、ただ一人……」
「何を驚くことがある」

 朱実あけみ殿下が緋色ひいろの言ったことを繰り返して呟いたら、答えたのは緋見呼ひみこさまだった。
 朱実あけみ殿下だけがただ驚いている。
 俺は緋色ひいろの腕の中で首を傾げるばかりだ。

「お主は、赤璃あかり以外の者のことをすでに考えておるのか?」
「いえ……。有り得ません……」

 朱実あけみ殿下は赤璃あかりさまの伴侶。赤璃あかりさま以外のことは考えていない。じゃあ俺たちと一緒じゃないか。
 でも、朱実あけみ殿下はふる、と首を横に振った。

緋色ひいろは、その、成人なるひとが儚くなっても、他の者とは添わない、と?」
「お前は、そうするのか?」

 緋色ひいろの声は冷たい。俺は、朱実あけみ殿下の話したことが全然分からなくて、後で調べる言葉を頭の中に書いておく。聞いてたら何となく分かるかな?緋色ひいろが怒るような言葉だったんだろう。

「ああ、いや。どうだろう。私の伴侶であることができるのは赤璃あかりしかいないから……。それに、あれは、その、成人なるひとより丈夫なのだし」

 これを、しどろもどろと言うのじゃないかな。言葉が上手く出なくて、でも話さなくてはならない時に無理やり言葉を口に出そうとするとなる、よく分からないお話。いつもすらすら話す朱実あけみ殿下も、しどろもどろになることがあるんだね。じゃあ、話の下手な俺なんて、しどろもどろになることがあっても仕方ない。ん?でも分からない時はあんまりたくさん話さないから、しどろもどろにはならないかも。

「馬鹿か?人の命なんて、いつどうなるか誰にも分かるものか。今日話していた人間が明日にはもういないなど、いや、数分後、数時間後には姿が見えないことなど、

 緋色ひいろのお話はとてもよく分かったので、俺はうんうんと頷いた。隣に立っていた人間が吹き飛ぶこともある。
 一瞬先も分からない。

「そんな先の話、知ったことか。今ここで、この腕の中にいる。これが全て。俺の最愛はただ一人」

 俺も。俺も、緋色ひいろが全て。緋色ひいろが好き。大好き。愛してる。
 幸せがいっぱいで、にこにこしてしまう。

「ふむ。良かったの、なる」

 くつくつと笑う緋見呼ひみこさまに頭を撫でられた。うんうんと頷くと、ますます笑っている。

「それは、戦場の話だろう?」
「まあ特殊な理論じゃが、間違いではない。そうじゃろう、朱実あけみ?」
「…………」

 朱実あけみ殿下が言葉に詰まるというのも、初めて見た気がする。



 
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