【完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

11 お前が必要  緋色

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 吐く息の熱さに、少し反省した。常陸丸ひたちまるの打撃を食らいすぎた。いつも、どれほど手加減されていたのかと思うと腹立たしい。早めに手当てしたのに、発熱してしまったようだ。体がこんな状態になるのは、何年ぶりだろうか。 
 舌打ちが出そうになって、止めた。
 二日続けて夜に目が覚めるとは……と思ってから、腕の中に成人なるひとがいないことに気付く。

成人なるひと?」

 掠れた声しか出ない。
 滅多に発熱などしないから忘れていたが、何とも不快なものだ。
 隣の布団が、もぞもぞと動いた。

緋色ひいろ?」

 そうだ。俺の痣だらけの体を心配した成人なるひとは、普段、昼寝でしか使用しない自分の布団に寝ているのだった。
 しまったな、と口をつぐむ。
 寝起きの良い成人なるひとは、すぐにがばりと起き上がって俺の布団へと這ってきた。
 そっと触れる小さな手が、ひんやりと気持ちいい。
 ふう、と息を吐いて目を閉じると、お熱だ、と掠れた高い声が呟いた。

生松いくまつ呼んでくる」
「いい。分かってたことだろ」

 中で大分腫れていますから、傷が熱をもって、体全体も発熱するかもしれません、と生松いくまつが言ったのを共に聞いていた。だから、布団も別にして寝たんだろ?
 うん、と頷く声が不安に揺れていて、軽く笑ってしまった。
 お前が体調を崩したときに、俺がどれだけ不安なのか少しは分かったか?

「寝ろ」
「手拭い、濡らしてくる」
「いらん。寝ろ」

 お前が起きてても仕方ない。今、体調を崩されると看病できんぞ。
 
「痛い?」
「ああ」

 痛み止めを飲んで寝たが、切れたらしい。嘘を吐いても仕方ないので、正直に伝える。

常陸丸ひたちまる、寝たかな」
「寝ただろ」

 ここまで暴れておいて、朝にまだ目の下に隈を作っていたなら、三日ほど謹慎処分だ。
 いや、利胤としたねと本気でやらせるか。それとも、力丸りきまる半助はんすけの二人を相手にさせるか。百人組手じゃ、怪我人が増えるばかりだからな。
 
乙羽おとわも寝たかな」
「寝ただろ」

 泣くのは疲れる。あれだけ話して泣けば、いくら壊れ気味の乙羽おとわでもそろそろ限界だろう。乙羽おとわが寝れば、常陸丸ひたちまるは寝る。
 きっと明日か明後日には、日常が戻ってくるのだ。そんなもんだ。そうでなくては困る。
 結局。

「お前のお陰だな」
「ん?」
 
 乙羽おとわを存分に泣かしてくれた。
 お前が居るだけで、色々と上手く回るってことだ。
 腕を伸ばして、小さな体を布団に引きずり込む。

「っえ」

 あちこち痛んで、呻いた。

「わ、緋色ひいろ駄目」

 知らん顔で抱き込む。俺のために、動かないように気を付けているのか、いつもより緊張した体をぽんぽんと宥めた。
 痛くても、これがいい。
 ここにいろ。
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