【完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

9 色んな人の悲しいの形  成人

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「何でかなあ。私が悲しんでも吉野よしのは還ってこないのに、悲しいのが止まらないの」

 ご飯の後で、乙羽おとわを俺の部屋に連れてきた。乙羽おとわの大きなきらきらの目から、また涙が盛り上がって溢れる。長いまつ毛にも涙が付いて、悲しいって泣く乙羽おとわも綺麗だなあって思った。
 俺は、うん、うん、とお返事しながら、乙羽おとわのお話を聞く。
 俺も。
 俺も悲しいよ。
 いっぱい悲しんでいいって、緋色ひいろが言った。ちゃんと泣いて、ちゃんと悲しいって言う。痛い時やしんどい時とおんなじだって。そう言われたら、すごく良く分かった。
 我慢したら、余計に酷い状態になって治るのに時間がかかるのは、もう知ってるから。悲しいのも、痛いのとおんなじなんだなあって思った。
 今日は皆、仕事はお休みだ、と緋色ひいろが言ったから、お仕事はお休み。だから、俺と乙羽おとわがお部屋でこうして、ずっと話してても大丈夫だからね。
 たくさん悲しいって言って、泣いていいよ。
 ああでも、壱臣いちおみ村次むらつぐはいつも通りご飯を作ってくれているし、水瀬みなせ鼓与ことは洗濯と掃除をしている。それらは、休みだって言ってもなかなか休めないんだな、って思った。
 休んだら、皆がご飯を食べられない。洗濯物を溜めると、明日、干す場所が無くなっちゃう。お掃除は、何日かしなくても大丈夫だと思うけど、どうしても休めないお仕事の人って大変だよね。
 ありがとうの気持ち。
 いっぱいの悲しいが終わったら、お手伝いを頑張ろう。
 三郎さぶろうも、緋色ひいろが休んでもお仕事してるみたいだ。休んでもいいって言いながら、でもきっと、三郎さぶろうが居てくれるから、緋色ひいろは安心してる。
 緋色ひいろは、常陸丸ひたちまるを引っ張って訓練所に出掛けた。
 弱っている常陸丸ひたちまると手合わせか、と何だか悪い顔で笑っていた。楽しそうだった。
 緋色ひいろは、あんまり変わらない。吉野よしののお葬式の時も、泣く俺をぎゅってして、ぽんぽんってしてくれていた。緋色ひいろは泣いてなかった。
 
「俺の悲しいは、泣くほどでは無かったってことだ」

 そうか。
 悲しいにも色々あって、たくさん悲しくてご飯を食べるのも忘れちゃう乙羽おとわもいれば、乙羽おとわより少ないけど、緋色ひいろより多い悲しい気持ちの俺もいる。
 斑鹿乃むらかの広末ひろすえも泣いていて、たくさん悲しかったみたいだ。末良すえよしはまだ、ばあばがねんねしてると思ってる。
 一人。
 たった一人、居なくなったこと。
 そんなの、よくあることだったのに。
 たくさんの色んな悲しいが……。
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