【完結】人形と皇子

第七章 冠婚葬祭

1 その日 成人

「吉野よしの？」

　末良すえよしと遊んでいた。末良すえよしのお家で。
　乙羽おとわも一緒に来たから、斑鹿乃むらかのと乙羽おとわは二人でお茶を飲みながらお話してて、俺は末良すえよしと遊んでいた。
　雨だから、外には行けない。だから、いつも通り。末良すえよしは今、玩具で遊ぶよりうろうろする方が楽しくて、よちよちとお家を歩き回る。
　末良すえよしのお家は狭いから、雨が続くなら離宮でお散歩するのもいいと思う。離宮は広いから、たくさんうろうろできる。今度、誘ってみようかな？
　あ、でも、末良すえよしはお父さんの広末ひろすえが大好きだから、広末ひろすえを見つけたら厨房に入ってしまうかもしれない。厨房は火を使ったり、刃物があって危ないから、子どもは許可なく入ったら駄目なんだよね。
　うちに来る子どもは、灯可とうかと見可みかだけなんだけど。
　末良すえよしは、お家の中をよちよち歩く。もう転ばないし、はいはいすることも無くなった。ずっと前から歩いてたよって顔で、上手に歩く。はいはいってちょっとの間しか、しないんだな。すぐ、歩けるようになるんだな。人間って凄い。

「ばあば！」

　お話も上手になって、扉も開けちゃう。吉野よしののお部屋も分かってるんだねえ。末良すえよしは吉野よしのをばあばって呼ぶ。末良すえよしは、ばあばが大好きだ。俺も、吉野よしのが好きだから一緒。
　吉野よしのは、お昼寝しているみたいだった。末良すえよしは、だんだんお昼寝しなくなって、眠くてもまだ寝ないって頑張って遊んでたりするんだけど、吉野よしのは、歳を取って眠くなることが多くなったんだって。
　今日は、末良すえよしは、お昼ごはん食べてからすぐにお昼寝して起きたから、元気いっぱい。俺も、おんなじ。ちょっと寝てから遊びに来た。雨だけど、頭痛くない。
　もうすぐおやつの時間だ。同じくらいから寝てたなら、たくさん寝すぎかも？

「ばあば！」

　末良すえよしの大きな声にも、起きない。いつもなら、はいはいってすぐに起きるのに。
　いや、いつもなら、こんな時間に寝ていたりしないのに。
　ううん。俺は、すぐに気付いた。寝ているのじゃないこと。
　でも、すぐに反応できなかったんだ。
　だって、久しぶりに見た。
　息をしていない人間を。