人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

133 離宮の誕生日会へ  朱実

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 とんでもないことを言われたものだ。緋色ひいろが私に謀反を起こすなどと、疑ったこともない。恐れているのは、私から離れてしまうこと。私の監視の目の届かぬ場所へ行ってしまうこと。
 だと言うのに、緋色ひいろはそんなことを考えているのか?緋色ひいろにそんなことを思っていると?
 あり得ない、そんなことは思っていない、と言葉を尽くしたふみは、一言、冗談だ、と返信があって終わった。信じるしかなく、更なる返信は書けなかった。
 そして、変わらぬ日々。戦争もない平和な世は、ありがたい。皇子誕生の騒ぎも徐々に落ち着いた。淡々と、日々の業務をこなしてその日がくる。あの日以降、成人なるひととのふみのやり取りはなく、御前会議で出会った緋色ひいろと話すことも無かった。離宮でも大きな変化は無かったようだ。
 招待状はなく、ただ聞いていた日に離宮を訪ねる。

「皇太子殿下。ようこそいらっしゃいました」

 成人なるひと乙羽おとわが包拳礼で出迎えてくれた。休日の普段着である。調べはついていたので、こちらも気負わずに動きやすいスーツで来た。護衛の弥壌みづちも、同じような格好をさせている。なかなかに着こなしているところが、おかしかった。
 楽にして、と言うと、特に何のチェックも無しに通された。周囲に、それぞれの伴侶の姿は見えず、二人だけだ。住人の姿も、おかしいほどに見えなかった。そのまま、食堂の隅に案内される。上座では無い場所に案内されたのは初めてだった。

「上座には、誕生月の者が立ちますのでご了承ください」

 乙羽おとわが頭を下げるので、頷く。郷に入っては郷に従えというではないか。人目があるでなし、気にすることではない。少しお待ちください、と言って二人は出て行った。
 食堂には、見たことのあるたこ焼きの鉄板が準備されている。壁に、折り紙やちり紙で作った様々な飾りが付けられていた。とても華やかで子どもっぽい空間に、弥壌みづちと二人で残されては、何とも居心地が悪い。力丸りきまるでも呼んでもらおうか、と考えていると、ばたばたと小さな足音が聞こえた。
 走っているな、と思うと不快感が広がる。受けてきた教育によるものだろう。そのまま、食堂へ真っ直ぐ向かってきた足音に目を向ければ、入り口で小さな姿が固まっていた。

見可みか、どうしたの?」

 後ろからもう一つ。そちらは私を認めるとすかさず包拳礼を取る。

「皇太子殿下」

 頭を下げた兄を見て、弟も同じ姿勢を取った。
 今月も来るのか。二人の誕生月は終わったはずだが、と思っていると、七条作治さくじが落ち着いた様子で後ろに立ち、包拳礼を取る。
 緋椀ひまり作治さくじは家族、だったか……。今は共に暮らしていないのに?

「ああ。楽にして。いちいちそれでは、皆、中に入れないだろう?礼は必要ないと伝えてくれないか?」
「はっ」

 返事をしたのは作治さくじだ。そのまま後ろを振り返ると、一ノ瀬の女が立っていた。気配の薄い女は、頷いて去っていったので、すぐに伝わることだろう。

「もういい?」

 見可みかは、礼を解いた灯可とうか作治さくじを見て、ほっとしたように小さく尋ねている。
 作治さくじが頷くと、恐る恐る食堂へ足を踏み入れ、私から離れた場所で座った。
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