【完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

131 お迎え  成人

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「……そもそも家族、家族と言うが」
「あ、お迎え?」

 皇太子殿下が低い声で何か言いかけていたけれど、扉の向こうに気配を感じて俺は立ち上がった。

「は?」

 がんっと乱暴に扉が開く。緋色ひいろが、大股で歩いて入ってきた。扉の横にいた皇太子殿下の護衛の弥壌みづちが、緋色ひいろに近付こうとして常陸丸ひたちまるに止められ、素手で三手打ち合った。
 パンパンパンで押されて、ほんの少し傾いた所で両腕掴まれて、両足踏まれた。
 おおおおおー。
 やっぱり弥壌みづちも強い!常陸丸ひたちまると実戦で打ち合いできるなんて!
 扉の外では、皇太子殿下の護衛の力丸りきまると俺の護衛の半助が、一応牽制しあっている。やり合う気は全然ないみたいだ。二人で威圧し合うことで、誰もこのお部屋に近寄れないようにしてるんだな。
 吹っ飛ばしたりしないで押さえつけるのいいね。お部屋も人も壊れないし、逃げられない。踏まれてる足は痛そうだけど。
 いいなあ、あれ。俺もしてみたい。力持ちじゃないとできないかな。何かこう、力持ちじゃなくてもできる方法が……。

成人なるひとを勝手に呼び出すのはやめてくれ」
「やあ、緋色ひいろ。久しぶりだね。まあ、座って?今、茶を持ってこさせよう」
「結構だ。帰るぞ、成人なるひと
「はーい」
「待ちなさい、成人なるひと。話の途中で立ち去るのは、相手に失礼な行為だよ」
「ん?」
「私たちはまだ、話の途中だろう?」
「んん?」

 そうだっけ?
 俺は、皇太子殿下とのお話を思い出してみる。
 お話の途中だったかな?うーん。俺とのお話は終わってるんじゃないかなあ。
 あ、そうだ。

緋色ひいろにお願いがあるんだって」
「は?」

 立ったまま話していると、皇太子殿下の侍従の七伏ななふせが、机に熱いお茶を一つ置いた。俺の、蓋を開けただけで飲んでいないお茶を下げようとするから、慌てて止める。

「まだ飲んでないから、待って」
「冷めたようなので、お取り替え致します」
「冷ましてたの」
「え?」
「熱いの飲めないから、冷ましてた」

 は、と七伏ななふせは深く頭を下げた。

「申し訳ございません」
「んーん、ごめんね」
「いえ、こちらこそ、申し訳なく」
「俺ね、熱いの苦手だから、冷まして飲むの」
「覚えておきます」

 頭を上げた七伏ななふせが、ほんの少し笑って言った。

「ありがと」
「覚えなくていい。成人なるひとがここへ来ることは、もう無いからな」

 え?そうなの?
 せっかく七伏ななふせと仲良くなったのに。お茶の出し方とか格好いいから、教えてもらいたいんだけどな。
 あ、でも、皇太子殿下に呼ばれてここへ来ても、話す暇は無かった。残念。
 あ、そうだ。
 もう来ないのなら、ますます今、お話をしておかないと。

「あのね、皇太子殿下がうちのお誕生日会に」
成人なるひと、待ちなさい!」
「お断りだ」

 来たいんだってって言う前に、皇太子殿下と緋色ひいろの声が重なった。
 ん?
 お話、終わっちゃったぞ。
 
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