【完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

128 成人からの謝罪の手紙  朱実

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『皇太子でんかへ
 お手紙をくれて、ありがとうございます。おへんじがおそくなって、ごめんなさいでした。
 それから、お手紙のいみをまちがえていたかもしれなくて、ごめんなさいです。
 おれのおうちのおたん生日会を、皇太子でんかも一しょにするのだったのですか。これも、合ってるか分からないです。まちがえていたら、またまたごめんなさいです。
 五月のおたん生日会はおわりました。ごめんなさい。六月もあります。七月もあります。ずっとまい月あります。
 でも、かぞくと友だちとします。皇太子でんかは、おれのかぞくと友だちじゃないです。皇太子でんかの友だちはだれですか。成人』
 離宮の誕生日会が済んだ翌々日に届いた成人なるひとの手紙は、なかなかにしどろもどろだった。今まではそれなりに手紙らしい体裁を整えていたのに、と不思議に思う。
 とりあえず、色々と謝っているようだ。ふむ。自分の勘違いには気付いたのか。いや、新しい解釈にも自信はないということか。
 ん?解釈?

「私の手紙は古文書こもんじょか何かか?」
「殿下、何かございましたか?」

 思わずぼそりと呟くと、机を並べて仕事をしていた文官が耳ざとく聞きつけてくる。

「いや。すまない、何もない」

 うっかり仕事中に、私信を読んでいた。成人なるひとからの手紙が、届いた書類に紛れていたものだから、一番先に開けてしまったのだ。ぞうとキリンとゴリラの絵がついた派手な色の封筒。お揃いの便箋。何度も書き直した跡のある、鉛筆の大きな文字。
 成る程、子どもの手紙だな。
 時候の挨拶をやめて、なるべく平易な言葉を選んで書いた私からのふみは、それでもまだ、古文書扱いらしい。
 ふと、力丸りきまるの言葉を思い出す。
 あいつ、定型通りでしょ。相手の内容についての可愛い返事が書いてあって、その後は、自分は今、こんなことしてますとか、こんなことが楽しいです、って書いてあるだけでしょ?
 つまり、今までのふみは定型であったからそれなりに体裁が整っていて、今回は謝罪文の定型が無く、またはうまく当てはまるものが見つけられずに、自分の言葉で書いたということか。
 そこで気付く。
 この手紙のやり取りは、完全に私と成人なるひとだけで行われていることに。
 誰かが私のふみを読んでいれば、成人なるひとはこんな勘違いをしたり、解読に時間がかかったなどと言ったりしないだろう。誰かに私への返事の仕方を聞いていれば、このようにしどろもどろになったりしないだろう。
 二人だけで、手紙を……。
 大勢の目に触れるものと思っていたから、慎重な表現を続けてきたが、その事にもう少し早く気付いておれば、恥ずかしいけれど、もっと直接的に伝えることをしても良かったのだ。くそう、失敗した。
 私信すら人目に触れることに配慮して、遠回しに匂わせるようなことばかり書く癖がついたのは、致し方ないことだけれども。
 そういうことなら、もう少し踏み込んで、直接的に書いてみようじゃないか。
 何となく楽しい気分になって、成人なるひとの手紙をとりあえず、重要物入れの引き出しに片付けた。
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