【完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

125 伝わらない  朱実

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『皇太子でんかへ
 分かりやすく書いてくれて、ありがとうございました。
 おたん生日会を一しょにしたいと言ってくれて、ありがとうございます。
 でも、一しょにできません。五月のさいごのお休みの日に、おれのおうちの五月生まれの人のおたん生日会があるので、皇太子でんかと一しょにできません。かぞくと友だちとやります。いつも、かぞくと友だちとやっています。
 さそってくれたのに、行けなくてごめんなさい。成人』
 ぞうやきりん、ゴリラの絵が並ぶ便箋三枚に、丁寧に書かれた大きな文字。なるべく分かりやすくと心掛けて書いた手紙への返事は、一日待ってようやく届いた。
 私の手紙の主旨は、伝わらなかったらしい。
 私が開催する城での誕生日会へ、成人を誘ったことになっているようだ。何故そうなったのか……。離宮の誕生日会へ参加したい旨を、それとなく書いたはずなのだが。
 その後、もう一度出したふみの返事は無いまま日は過ぎ、一ノ瀬から誕生日会の報告書が届いた。
 参加者の氏名欄を見ると、一条家が一家で参加していたことが分かる。
 家族と友だちとやるんじゃなかったのか?一条家は家族ではないだろう?
 それをふみで聞いてみたい気がするが、また上手く伝わらずに、訳の分からない回答がきそうだ。
 一ノ瀬の報告書には淡々と、一連の流れが書かれているのみ。いつも通りの誕生日会。違ったのは一条家と見可みかが来訪し、誕生月の茉璃まつり見可みかが、離宮の誕生月の者と共に祝われたこと。しかしこれも、先月に七条家と灯可とうかが来訪しているので、先月とほぼ同じだといえる。しかし、一条家の来訪に納得できない気持ちが収まらない。
 先月まではまだ、納得ができた。七条の二人はもともと離宮の住人である。広末ひろすえ一家が、住居を外に構えて離宮を出てからも、誕生日会へは参加していることを知っていたので、元住人が誕生月ならば声を掛けることがあるのだろうと思ったのだ。
 しかし一条家は、元住人でもなければ、家族でもない。成人なるひとが友だちなのは、灯可とうかだけだ。
 胸のうちで文句を垂れながら、報告書を読み進める。何の楽しいことも書いてはいない。
 誕生月の者の名前の羅列。私の名が載ることはなかった。いや、参加していたら報告書はいらなかったのだから、結局名が載ることはないのか……。
 緋色ひいろからのプレゼントは、いつも通り全員に図書券であること。
 緋色ひいろが図書券以外のプレゼントを渡す相手は、成人なるひと乙羽おとわ常陸丸ひたちまる力丸りきまるだけ。
 成人なるひとにプレゼントを買っていることは知っていたが、成人なるひと以外にもプレゼントを選んで買う相手がいたのだと知らなかった。皇族わたしたちが渡した品は、どんなものも下賜品になるからと気を付けている筈なのに。そんなことも気にせずに付き合える相手が、こんなにも。
 誕生日会など始まらなければ、こんな情報を知ることもなかった、と思ってからため息を吐く。
 知らなくてよかった報告は、たくさんある。
 それでも、報告書を読まないではいられないのだ。
 
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