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第六章 家族と暮らす
116 いらいら 緋色
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これを、と手渡された書類は、父とのやり取りで使うものだった。持ってきた朱実とは何の関係もない。特に朱実が気にするような内容でもない。
何なんだ、こいつ。
毎日毎日、仕事の邪魔しに来やがって。
「緋色、私の誕生日は五月だ」
知っている。
それがどうかしたか、と黙っていれば、にこりと笑顔を作られた。
「この離宮での誕生日会は、申し込みをすれば参加できると聞いた。とても楽しいものらしいな。先日、朱音に挨拶に来た灯可と見可に教えてもらったのだ。あの子達はすでに四月に参加していて、五月の申し込みも済んでいるとか?」
「…………」
誰でも参加できると言った覚えはない。
「私も参加させてほしい」
「…………」
はっきり断る理由を探して黙って立っていれば、盆に注文した飲み物を乗せた力丸が戻ってきた。
お前がこんなとこまで連れてくるからこんな面倒くさいことに、と睨み付けるが、これっぽっちも気にする様子はない。そりゃそうか。仕事がすんで帰ってきたら、デコピン一発食らわせとこう。
「お話終わりました?戻られますか?」
俺の手に書類が渡っているのを見て、軽く言っている。
「どうかな、緋色」
「あれは、成人の主催なんで。俺には何とも」
五月の誕生日会はもうすぐだ。先送りにしているうちに過ぎたことにしてもらおう。
力丸から盆を受け取って部屋へ戻ろう、と手を出すと、ひょいと避けられる。
「中まで運びますよ。お話、ちゃんと終わってください」
「終わった」
「いや、終わっていない。成人の許可がいるなら会わせてくれ」
「断る」
「ならば、申し込みはすんだということでいいのか」
「いや。それも断る」
「理由を聞いても?」
何だ?こんなにしつこいことあったか?誰だ、これ?
「基本的にこの家の中の催しだ。成人が喜ぶからやってるんだよ。成人が友を呼ぶ分には構わんが、参加したいという者を誰でも彼でも参加させられる訳ないだろ、収拾がつかん」
最近は朱実が何をしても大して感情が動くことは無かったが、久しぶりに苛々した。
「私はお前の家族だろう?」
「だから何だ?」
家族。
そうだな。血の繋がりがあることを否定したことはない。ただ、家族だからと他の者より気にかけたり、特別な気持ちを持つことが、朱実に対して無くなっているだけだ。
「皇太子殿下。とりあえず、今日の用事が済んだなら戻りましょう。今日は成人には会えないですよ。調子悪いから」
盆を部屋の中にさっさと置いてきた力丸が、俺の表情を読んで口を挟んだ。盆を置いただけで出てきたなら、成人は薬が効いて寝直したのだろう。ミックスジュースは冷蔵庫に冷やしておくか。
茶も熱いうちに飲みたい、と踵を返す。
閉めた扉の向こうから、足音が遠ざかるのが聞こえた。
力丸が連れ帰ったな。よし。デコピンは勘弁してやろう。
何なんだ、こいつ。
毎日毎日、仕事の邪魔しに来やがって。
「緋色、私の誕生日は五月だ」
知っている。
それがどうかしたか、と黙っていれば、にこりと笑顔を作られた。
「この離宮での誕生日会は、申し込みをすれば参加できると聞いた。とても楽しいものらしいな。先日、朱音に挨拶に来た灯可と見可に教えてもらったのだ。あの子達はすでに四月に参加していて、五月の申し込みも済んでいるとか?」
「…………」
誰でも参加できると言った覚えはない。
「私も参加させてほしい」
「…………」
はっきり断る理由を探して黙って立っていれば、盆に注文した飲み物を乗せた力丸が戻ってきた。
お前がこんなとこまで連れてくるからこんな面倒くさいことに、と睨み付けるが、これっぽっちも気にする様子はない。そりゃそうか。仕事がすんで帰ってきたら、デコピン一発食らわせとこう。
「お話終わりました?戻られますか?」
俺の手に書類が渡っているのを見て、軽く言っている。
「どうかな、緋色」
「あれは、成人の主催なんで。俺には何とも」
五月の誕生日会はもうすぐだ。先送りにしているうちに過ぎたことにしてもらおう。
力丸から盆を受け取って部屋へ戻ろう、と手を出すと、ひょいと避けられる。
「中まで運びますよ。お話、ちゃんと終わってください」
「終わった」
「いや、終わっていない。成人の許可がいるなら会わせてくれ」
「断る」
「ならば、申し込みはすんだということでいいのか」
「いや。それも断る」
「理由を聞いても?」
何だ?こんなにしつこいことあったか?誰だ、これ?
「基本的にこの家の中の催しだ。成人が喜ぶからやってるんだよ。成人が友を呼ぶ分には構わんが、参加したいという者を誰でも彼でも参加させられる訳ないだろ、収拾がつかん」
最近は朱実が何をしても大して感情が動くことは無かったが、久しぶりに苛々した。
「私はお前の家族だろう?」
「だから何だ?」
家族。
そうだな。血の繋がりがあることを否定したことはない。ただ、家族だからと他の者より気にかけたり、特別な気持ちを持つことが、朱実に対して無くなっているだけだ。
「皇太子殿下。とりあえず、今日の用事が済んだなら戻りましょう。今日は成人には会えないですよ。調子悪いから」
盆を部屋の中にさっさと置いてきた力丸が、俺の表情を読んで口を挟んだ。盆を置いただけで出てきたなら、成人は薬が効いて寝直したのだろう。ミックスジュースは冷蔵庫に冷やしておくか。
茶も熱いうちに飲みたい、と踵を返す。
閉めた扉の向こうから、足音が遠ざかるのが聞こえた。
力丸が連れ帰ったな。よし。デコピンは勘弁してやろう。
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