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第六章 家族と暮らす
108 分かったこと 成人
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「存在しない方がいい、と思ったことは何度もある」
朱実殿下は、いつもと変わらない調子で返事をした。
「何せ敵の兵器だ。存在するだけで恐ろしいものが、ごく近くに在るんだよ。私の大切な者たちに害を為しやしないかと、どんなに気を揉んだことか」
そうだなあ。俺は兵器だったもんな。常陸丸も最初はずっと、俺に銃を向けていた。それで皆が安心できるなら、そうしたらいいと思っていた。撃たれても構わなかった、その時は。だって俺はもう幸せで、そのまま死ぬのもいいなって思っていたから。
今は違う。今は駄目だ。長生きしないと緋色が悲しいからね。緋色を悲しませることは、絶対にしたくない。だから、朱実殿下に、存在しない方がいい、と思われていても、簡単に命は差し出せないんだ。俺は、殺気を向けられたら生きるために必死で抵抗する。今はね。できれば、殺気を向けないでほしい。きっと相手も無傷では済まないから。
「なるは、もう兵器じゃない。いえ。拾った時から人間だったと緋色殿下は言っていたわ」
赤璃さまが大きな声で朱実殿下に言ってくれた。
そうだった。緋色は最初から、俺のことを人間だと言ってくれた。俺が、それを否定しちゃいけない。俺は人間。兵器じゃない。人を傷付けたり殺したりしてはいけないことを、もう知っている。
「兵器だよ。誰もが忘れた頃に兵器としての機能が作動したら、どうするんだ?」
「手術をしたでしょう?定期的な健康診断も行っているわ。もう、なるを勝手に動かそうとするものは何も体に残っていない。博士たちのお墨付きよ!」
「絶対大丈夫、なんてことは無いさ。だって、あんなにたくさん、うちの兵を殺したじゃないか。私くらい、そのことを覚えていなくては。それが、私の大切な人たちの命を護ると信じているよ」
「なるを見て!今の成人をしっかりと見て!緋色殿下の一番大切な人である成人を!」
「落ち着きなさい、赤璃。そんなに感情的では、何を話しているかの主題が分からなくなってしまうよ」
赤璃さまは、俺をぎゅって抱きしめながら泣き出した。ぽろぽろと目から涙がこぼれていく。綺麗だな……。
「皇太子殿下は、俺のことが嫌いなのか」
赤璃さまが俺を抱いたまま、びくっと体を揺らした。
はっきり言われなくても分かった。そういうことなんだ。俺が赤虎を嫌いって思うみたいに、朱実殿下は、いや皇太子殿下は、俺のことが嫌いなんだ。殺したいくらいに。
返事はなくて、ただいつもの顔で皇太子殿下は俺と赤璃さまを見ている。
「でも、殺されてあげられない。ごめんね」
俺は、一番大切な大好きな人と長生きする約束をしてるから、好きでも嫌いでもない人の願いは叶えてあげられないよ。ごめんね。
朱実殿下は、いつもと変わらない調子で返事をした。
「何せ敵の兵器だ。存在するだけで恐ろしいものが、ごく近くに在るんだよ。私の大切な者たちに害を為しやしないかと、どんなに気を揉んだことか」
そうだなあ。俺は兵器だったもんな。常陸丸も最初はずっと、俺に銃を向けていた。それで皆が安心できるなら、そうしたらいいと思っていた。撃たれても構わなかった、その時は。だって俺はもう幸せで、そのまま死ぬのもいいなって思っていたから。
今は違う。今は駄目だ。長生きしないと緋色が悲しいからね。緋色を悲しませることは、絶対にしたくない。だから、朱実殿下に、存在しない方がいい、と思われていても、簡単に命は差し出せないんだ。俺は、殺気を向けられたら生きるために必死で抵抗する。今はね。できれば、殺気を向けないでほしい。きっと相手も無傷では済まないから。
「なるは、もう兵器じゃない。いえ。拾った時から人間だったと緋色殿下は言っていたわ」
赤璃さまが大きな声で朱実殿下に言ってくれた。
そうだった。緋色は最初から、俺のことを人間だと言ってくれた。俺が、それを否定しちゃいけない。俺は人間。兵器じゃない。人を傷付けたり殺したりしてはいけないことを、もう知っている。
「兵器だよ。誰もが忘れた頃に兵器としての機能が作動したら、どうするんだ?」
「手術をしたでしょう?定期的な健康診断も行っているわ。もう、なるを勝手に動かそうとするものは何も体に残っていない。博士たちのお墨付きよ!」
「絶対大丈夫、なんてことは無いさ。だって、あんなにたくさん、うちの兵を殺したじゃないか。私くらい、そのことを覚えていなくては。それが、私の大切な人たちの命を護ると信じているよ」
「なるを見て!今の成人をしっかりと見て!緋色殿下の一番大切な人である成人を!」
「落ち着きなさい、赤璃。そんなに感情的では、何を話しているかの主題が分からなくなってしまうよ」
赤璃さまは、俺をぎゅって抱きしめながら泣き出した。ぽろぽろと目から涙がこぼれていく。綺麗だな……。
「皇太子殿下は、俺のことが嫌いなのか」
赤璃さまが俺を抱いたまま、びくっと体を揺らした。
はっきり言われなくても分かった。そういうことなんだ。俺が赤虎を嫌いって思うみたいに、朱実殿下は、いや皇太子殿下は、俺のことが嫌いなんだ。殺したいくらいに。
返事はなくて、ただいつもの顔で皇太子殿下は俺と赤璃さまを見ている。
「でも、殺されてあげられない。ごめんね」
俺は、一番大切な大好きな人と長生きする約束をしてるから、好きでも嫌いでもない人の願いは叶えてあげられないよ。ごめんね。
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