656 / 1,321
第六章 家族と暮らす
91 たこ焼き名人 緋色
しおりを挟む
「緋色。できた。美味しいの、できた」
「おう」
手慣れた様子でたこ焼きを丸めた成人が、村次に持ってもらった皿に十個並べてから受け取り、俺に差し出す。
綺麗に丸くなったたこ焼きは、料理人たちが作るものと遜色無い。ずいぶんと上手くなったもんだ。
手伝いの手を遠慮なく使えるようになったことにも驚いた。片手ではできないことをできないと諦めるのではなく、手伝ってもらって俺に渡すところまでできるようになったのか。まあ、手伝いが村次だから安心しきっているのかもしれないが。あいつらは力丸と三人、いや最近は三郎も加わったんだったか。ムカつくくらいに仲が良い。
「私もできたあ」
隣で常陸丸へ差し出された乙羽のたこ焼きは、なかなかに個性的な形だった。
「おお。すごいな乙羽。ありがとう」
感激しているが常陸丸。あまり美味しそうには見えないぞ。成人が初めて作った時のものよりかなり……いや、乙羽にしては頑張った方か。何度か練習していた成果が出ているんだろう。
火傷している、やめてほしい、と常陸丸がぐちぐちぐちぐち煩かった。頑張ってるのにやめろとは言えないが怪我するようなことはしてほしくないとか何とか、あまりに煩いもんだから、怪我するようなことすんなよ、と乙羽の手を見てみれば、火傷とも言えない小さな赤くなった皮膚があるだけで、馬鹿馬鹿しくなった。頑張れ、と言った俺は絶対に正しい。
成人は俺に皿を差し出した後も、村次と協力して残りのたこ焼きをせっせと皿に乗せていく。
「すげー。成人さま、すげー」
見可の真っ直ぐな称賛が部屋に響いている。
「お手々一個とお目々一個なのに、すごく上手」
「こら見可。お手々一個とかお目々一個とか言わない」
灯可が先ほどから弟の言動を気にして注意をしているが、見可には大して届いていないようだ。ま、目くじらを立てるほどのことじゃない。事実だからな。
たこ焼きは二回目が片付いて、調理担当が広末に代わる。当然のように俺の膝の上に帰ってきた成人は、俺の持つ皿の上のたこ焼きが二つ、半分に割って冷ましてあるのを見て嬉しそうに笑った。
「旨い。ありがとう」
「うん」
今年も、とんでもなく幸せな誕生日が過ぎていく。
たこ焼きと共に幸せを噛みしめていると隣からまた、見可の興奮した声が聞こえた。
「広末、すげー!一番すげー!手妻みたいだ!」
「本当にすごい」
灯可まで呟くので鉄板の方を向いてみれば、両手でぽんぽんとたこを入れて、両手でくるくるとたこ焼きをひっくり返している広末の姿がある。ひっくり返されて焼けていくたこ焼きは、見事な焼き色と信じられないほどの真ん丸で。
流石はうちの筆頭料理人。もはや手妻と言われるレベルだったらしい。
◇◇◇
手妻→手品、マジック
「おう」
手慣れた様子でたこ焼きを丸めた成人が、村次に持ってもらった皿に十個並べてから受け取り、俺に差し出す。
綺麗に丸くなったたこ焼きは、料理人たちが作るものと遜色無い。ずいぶんと上手くなったもんだ。
手伝いの手を遠慮なく使えるようになったことにも驚いた。片手ではできないことをできないと諦めるのではなく、手伝ってもらって俺に渡すところまでできるようになったのか。まあ、手伝いが村次だから安心しきっているのかもしれないが。あいつらは力丸と三人、いや最近は三郎も加わったんだったか。ムカつくくらいに仲が良い。
「私もできたあ」
隣で常陸丸へ差し出された乙羽のたこ焼きは、なかなかに個性的な形だった。
「おお。すごいな乙羽。ありがとう」
感激しているが常陸丸。あまり美味しそうには見えないぞ。成人が初めて作った時のものよりかなり……いや、乙羽にしては頑張った方か。何度か練習していた成果が出ているんだろう。
火傷している、やめてほしい、と常陸丸がぐちぐちぐちぐち煩かった。頑張ってるのにやめろとは言えないが怪我するようなことはしてほしくないとか何とか、あまりに煩いもんだから、怪我するようなことすんなよ、と乙羽の手を見てみれば、火傷とも言えない小さな赤くなった皮膚があるだけで、馬鹿馬鹿しくなった。頑張れ、と言った俺は絶対に正しい。
成人は俺に皿を差し出した後も、村次と協力して残りのたこ焼きをせっせと皿に乗せていく。
「すげー。成人さま、すげー」
見可の真っ直ぐな称賛が部屋に響いている。
「お手々一個とお目々一個なのに、すごく上手」
「こら見可。お手々一個とかお目々一個とか言わない」
灯可が先ほどから弟の言動を気にして注意をしているが、見可には大して届いていないようだ。ま、目くじらを立てるほどのことじゃない。事実だからな。
たこ焼きは二回目が片付いて、調理担当が広末に代わる。当然のように俺の膝の上に帰ってきた成人は、俺の持つ皿の上のたこ焼きが二つ、半分に割って冷ましてあるのを見て嬉しそうに笑った。
「旨い。ありがとう」
「うん」
今年も、とんでもなく幸せな誕生日が過ぎていく。
たこ焼きと共に幸せを噛みしめていると隣からまた、見可の興奮した声が聞こえた。
「広末、すげー!一番すげー!手妻みたいだ!」
「本当にすごい」
灯可まで呟くので鉄板の方を向いてみれば、両手でぽんぽんとたこを入れて、両手でくるくるとたこ焼きをひっくり返している広末の姿がある。ひっくり返されて焼けていくたこ焼きは、見事な焼き色と信じられないほどの真ん丸で。
流石はうちの筆頭料理人。もはや手妻と言われるレベルだったらしい。
◇◇◇
手妻→手品、マジック
456
お気に入りに追加
5,083
あなたにおすすめの小説
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる