【完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

90 俺のたこ焼き  成人

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「たこ焼きすげー。村次むらつぐ、すげー」

 たこ焼きを焼き始めたのは村次むらつぐ。今日は村次むらつぐが焼くから、早くから一人で準備してたんだね。広末ひろすえ壱臣いちおみは飲み物とかお皿とか運んでて、たこ焼きの準備は全部村次むらつぐがしてた。うん。村次むらつぐすげー。
 見可みかははじめは、うわあ、と口を開けて見ていた。そのうち、くるくるひっくり返しが始まると、ずっとすげー、すげーと言っている。灯可とうかもその横で真剣な顔で見てる。

見可みか。俺も次に焼く」
「え?成人なるひとさまが?」
「うん」
「棒一本で回して、あんなぐちょぐちょだったのが、くるくる丸くなってるやつ?」
「うん」
「えええ、本当に?本当にできる?手一つしか無いのに?成人なるひとさま、すげー」
見可みか。手一つしか無いとか言っちゃ駄目でしょ」
「あ、ごめんなさい。でも、手一つでもできるの?」

 まだしてないのに、すげーって言われちゃった。

「えへへ。次に俺が焼いて緋色ひいろにあげるんだ」
「すげー」
「できた、ほい」

 村次むらつぐの焼いたたこ焼きの一番はじめのお皿は、鼓与ことに渡された。お誕生日の鼓与こともたこ焼きの鉄板の近くでにこにこして見守っていたから、

「私?いいんですか?」

 と、驚いている。

「早く受け取れ。次ができない」
「はい。ありがとうございます、つぐさま」
「ん」

 にこにこの鼓与ことが受け取って、村次むらつぐは次々と出来上がったたこ焼きをお皿に移していく。お誕生日の人から順番。でも緋色ひいろのは俺が焼くから待っててね。
 一回目を焼いた鉄板を綺麗にしながら油を塗ってくれている村次むらつぐの横に立つ。俺の横に乙羽おとわも来た。

「私も常陸丸ひたちまるの分を焼くね」
「火傷すんなよ。気を付けるんだぞ」

 乙羽おとわは腕まくりしてやる気満々なのに、常陸丸ひたちまるは心配そう。乙羽おとわは不器用だけど、頑張って練習してたから大丈夫だよ。あ。練習の時に何回かほんの少し火傷してたのがバレたのかな。
 村次むらつぐが二回目の生地を鉄板に流し込む。俺は、たこをお皿から掴んで一つ一つ横から入れていく。たこの手触り、ちょっと気持ち悪いけど、素早くしないと間に合わないから真剣に。
 乙羽おとわは棒を持ってひっくり返すのを待っている。村次むらつぐ、こんなたくさんのたこ焼きを、続けてどんどん焼けるようになったのすごいよね。

「あちー。熱いー。でもうまいー」
見可みか、ちゃんと冷まさないと火傷するよ」

 がぶっと食べようとした見可みかが大騒ぎしてる。でも、そっちを見てる暇はなくて、俺と乙羽おとわはくるくるを開始した。村次むらつぐはちょっと避けてお手伝いをせずに待っててくれている。もう俺も早くなったから大丈夫だよ。くる。くる、くる。俺の綺麗な丸のたこ焼きと、乙羽おとわのちょっとへこんだ所のあるたこ焼きが出来上がっていく。

「すげー。成人なるひとさま、すげー」

 見可みかありがと。俺のたこ焼きも食べてって。

 

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