【完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

86 じゃんけん好きだね?  成人

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 応接室の扉を叩いて、お待たせって言うと、すぐに灯可とうかが扉を開けてくれた。見可みかみたいに元気一杯飛び出してきたりはしなくて、どちらかというとしょんぼりしている。

「ごめんね。お待たせ」

 来たときはとても楽しそうだったのに、どうしたんだろう。

成人なるひとさま。じゃんけん誰にも勝てませんでした」 
「ん?」

 じゃんけん?

「修行が足りん、修行が」

 後ろから緋色ひいろが出てきて笑う。

「殿下、容赦ねえ。子ども相手に大人げないったら」
「ならお前が負けてやれ、常陸丸ひたちまる
「いやあ、負けるのはちょっと」

 あ、じゃんけんして遊んでたのか。灯可とうか、お正月にもじゃんけん好きだったもんねえ。

「あの。ごめんなさい、灯可とうかさま。私もわざと負けるのはちょっと苦手で……」

 鼓与ことが申し訳なさそうに扉の横に立って、他の人が出ていくのを待ちながら頭を下げた。

村正むらまさが負けてやるべきだったんじゃないか」

 緋色ひいろが楽しそうに笑っている。

「いやあ、殿下。私にも頭領としてのこう、事情があります。鼓与ことが負けていないのに私が負ける訳にはいかんでしょう」
「は、ははははは」

 応接室から出てきた作治さくじが笑いながら灯可とうかの頭を撫でた。

「この家で勝てるようになったら、そりゃすごいことだってことなのさ」
作治さくじおじ様でも難しいですか?」
「ああ、もちろん」
「それなら仕方ないです」

 歩きながら、少しだけ灯可とうかが元気になってきた。良かった。

「うちはねえ、じゃんけんは目をつぶらないと駄目になった」
「ははあ、成る程」
壱臣いちおみが弱くて」
「ふふふ。壱臣いちおみさんは、目をつぶってても負けそうですね」
「うん。順番決めはあみだくじになった」
「それがいいかもしれません」
「今日は、その壱臣いちおみさんと仰る方はおられますか?」

 俺と作治さくじの会話を聞いていた灯可とうかが口を挟む。

「いるよー」
「じゃんけん、してくれるでしょうか?」
「してくれるよー」

 よし、と灯可とうかが嬉しそうに拳を握る。
 うーん。きっと壱臣いちおみは笑ってじゃんけんしてくれるし、絶対勝てるよ。
 でも、壱臣いちおみを負かしたら半助はんすけがすぐに勝負を挑んでくるんじゃないかなー。そしたらやっぱり灯可とうかは負けちゃうなあ。
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