【完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

51 ただいま!  壱臣

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壱臣いちおみさん、おかえりなさい。今日まで休んでいても良かったのに」

 気合いを入れて早起きして厨房に下りると、まだ外は薄暗いというのに、もう厨房にいた村次むらつぐくんが驚いたように迎えてくれた。

「ただいま。おはよう、村次むらつぐくん。村次むらつぐくんこそ早いなあ」
「俺はいつも通りですよ」
「うん。せやな」

 練習熱心なこの子は、空き時間を見つけては技術の習得を怠らない。見習わなあかんな、といつも思う。

「長いこと休んでごめんな」
「大丈夫です。俺もだいぶ出来ること増えてきましたし。それに広末ひろすえさん、元々一人でもここの調理全部してたんですよね?俺なんかの手伝いいるのかなって、時々不安になります」
「そんな……」
「いるに決まってんだろ」

 後ろから広末ひろすえさんの声がしてびっくりした。皆、早いなあ。村次むらつぐくんは、おはようございます、と普通に挨拶した。少し嬉しそうに口元が緩んどる。

「おはよう。壱臣いちおみさん、おかえり。今日は休んでてもいいんだぜ?」
「ただいま帰りました。長いこと休ませてもろて、すみません。手伝わせてください」

 広末ひろすえさんは、くっくっくっと笑う。

「人の作ったもんばっかり何日も食べるのは飽きたか?」
「いいええ。ええ体験やったよ。それに最後の方は朝食と夕食は作っとったし」
「なんだあ。旅先でも料理してたのか。休めねえなあ」

 広末ひろすえさんがけらけら笑う。村次むらつぐくんも米を計量しながら笑っている。

成人なるひとのため?」
「ああ、なる坊の食うもん無くなったか?」
「いいええ。実家の辺りに帰ったら、こちらでは手に入りにくい懐かしい食材やら、今までは高うて買えんかった食材やら見かけてしもて」
「ははは。そりゃ、手に入れたくなるな」
「それは作りますね」

 そう。そうなのだ。
 九鬼くきの領地で寝泊まりのための屋敷を貸してもろたら、綺麗で上等で誰も使てない厨房が付いていた。ずいぶんのんびりさせてもろたし、日にちが長くなってくると成人なるひとくんと乙羽おとわさんの旅行中の食事がちょっと心配になってくる。食べられるもんがようけあるわけやないから、どうしても偏ってしもてるなあ、と気になっていたのだ。朝食くらいうちが作ったらどうやろか、と聞いてみたら皆賛成してくれた。弐角にかくもえらい上等な食材を準備してくれたし、うちもやっぱり調理するんが楽しかった。
 九鬼くきに着いた翌日は、成人なるひとくんや乙羽おとわさんが猿回しを喜んだと聞いた弐角にかくの勧めで手妻てづまの舞台を観に行くことになったんやけど、出演者が羽織袴姿やと聞いてうちと半助だけ別行動にさせてもろた。どうもうちは、羽織袴の人に恐怖を感じとるようやと生松いくまつ先生に教えてもろてたから、避けることができて良かった。
 住んでたけど、町を歩いたことなんて無かったからちょうどええ。ぶらぶらと色んな所を、半助と二人で歩くだけでものすごう楽しかった。髪飾りを贈りあうなんて、恋人同士みたいなこともした。うわ、思い出しても照れるわ……。いやもう、恋人いうか、誓いを交わしとるから夫夫ふうふなんやけど……。

「何赤くなってんだ?」
「あ、いや。その」

 思い出してたら、つい。

「さっきの会話で何か照れるとこありましたっけ?」
「そりゃ新婚旅行なんだから、色々あるんだろうよ」
「はあ、そういうもんですか」
「そういうもんだ、なあ?」

 広末ひろすえさんと村次むらつぐくんが追い打ちをかけてくる。あああ、やめてえ。
 とにかく、話題を変えねば。

「い、市場で、色々仕入れて来ました!」
「おお!とっとと朝飯作ってしまうぞ!昼と夜の献立は変更かもな。色々試すぞ!」
「うわあ、楽しみですね!」

 なんて幸せな日々なんやろ。
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