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第六章 家族と暮らす
49 その存在をただ見てみてほしい 赤璃
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「これお土産」
紙袋の中から小さな箱が出てきた。
「なあに?綺麗な箱ね。動物園と温泉に行ってきたんじゃないの?」
「弐角のおうちも行ってきた」
「そう。いいねえ」
弐角のおうち?
「九鬼のお城でお泊まりしてきたの?」
「いや、城には行っていない。壱臣と三郎を連れていたからな。城には入りたくないだろうと弐角が気を使って、屋敷を一つ貸してくれた。……一ノ瀬に聞いていないのか?」
首を傾げて尋ねれば、緋色が不思議そうな顔をした。ああ、報告書ね。
「温泉と動物園までは見たけれど、その後は見てないわ」
「へえ?」
「なるに聞いた方が楽しそうだから、見るのやめたの。何だか人の行動をのぞき見してるみたいで嫌だったし」
「実際のぞき見だろ」
「そうよね……」
話しながら綺麗な包装紙を開ける。九鬼の領地の土産はいつも、とても繊細で上品で、包装紙すら置いておきたくなるような見た目をしている。
「綺麗」
中には、小さな干菓子が縦に五つ、横に六つ並んでいた。一つ一つが花の形をして薄く様々な色が付いていて、それもまた美しい。
「綺麗で甘くて美味しいの」
にこにことなるが言って、もう一つ箱を取り出す。
「それは?」
「俺の」
えへへ、と笑いながら、包装紙を丁寧にはがし始めるので、慌てて止めた。
「私のを一緒に食べたらいいじゃない。それはおうちで食べて」
「んー?でも、赤璃さまの分、減っちゃう」
「こんなにたくさんあるのよ。大丈夫」
折角なので、一つ摘まむ。白いものから味見しよう。菊のように細かな花びらが刻まれているそれを眺めてから、口に含む。優しい甘さが広がってほろほろとほどけていった。
「美味しい」
「でしょう?」
結局、自分の分の箱を片手で頑張って開けたなるが、うふふと笑いながら桃色の桜の花を模した干菓子を摘まむ。赤に似ているその色は、なるの好きな色の一つね。
「朝桐」
「はい?」
私と緋色の前に熱いお茶を置いて下がろうとしていた朝桐が、驚いて動きを止めた。
「はい、あーん」
「え?え?」
朝桐は驚いている間に口元に干菓子を運ばれて、思わず口を開けている。あらあらと見ている間に、朝桐の口に干菓子が放り込まれた。
この箱の中で一番、なるの好きな色でしょうに。
一番好きなものを、気に入った人に迷わずあげちゃうところが、なるなのよねえ。
「美味しい?」
「はい。とても美味しいです。ありがとうございます」
「えへへ」
なるが、自分の口にも一つ入れて、ふにゃと笑う。その顔を見ていると幸せな気持ちになる。なるが幸せそうで良かった、と思う。
なるの隣に座る緋色の柔らかい笑顔を見に来るように、朱実に声をかけるべきなのかしら?
今、朱実が居たら、なるはともかく緋色の笑顔は消えてしまうかしら?
様々な考えが、ぐるぐると頭の中を回る。
あれが、恐ろしくないのか、と近衛隊長にぽつりと溢したあの人に、私の横でただ、なるを、なると緋色が二人で居る様子を、見ていてほしいと思った。
紙袋の中から小さな箱が出てきた。
「なあに?綺麗な箱ね。動物園と温泉に行ってきたんじゃないの?」
「弐角のおうちも行ってきた」
「そう。いいねえ」
弐角のおうち?
「九鬼のお城でお泊まりしてきたの?」
「いや、城には行っていない。壱臣と三郎を連れていたからな。城には入りたくないだろうと弐角が気を使って、屋敷を一つ貸してくれた。……一ノ瀬に聞いていないのか?」
首を傾げて尋ねれば、緋色が不思議そうな顔をした。ああ、報告書ね。
「温泉と動物園までは見たけれど、その後は見てないわ」
「へえ?」
「なるに聞いた方が楽しそうだから、見るのやめたの。何だか人の行動をのぞき見してるみたいで嫌だったし」
「実際のぞき見だろ」
「そうよね……」
話しながら綺麗な包装紙を開ける。九鬼の領地の土産はいつも、とても繊細で上品で、包装紙すら置いておきたくなるような見た目をしている。
「綺麗」
中には、小さな干菓子が縦に五つ、横に六つ並んでいた。一つ一つが花の形をして薄く様々な色が付いていて、それもまた美しい。
「綺麗で甘くて美味しいの」
にこにことなるが言って、もう一つ箱を取り出す。
「それは?」
「俺の」
えへへ、と笑いながら、包装紙を丁寧にはがし始めるので、慌てて止めた。
「私のを一緒に食べたらいいじゃない。それはおうちで食べて」
「んー?でも、赤璃さまの分、減っちゃう」
「こんなにたくさんあるのよ。大丈夫」
折角なので、一つ摘まむ。白いものから味見しよう。菊のように細かな花びらが刻まれているそれを眺めてから、口に含む。優しい甘さが広がってほろほろとほどけていった。
「美味しい」
「でしょう?」
結局、自分の分の箱を片手で頑張って開けたなるが、うふふと笑いながら桃色の桜の花を模した干菓子を摘まむ。赤に似ているその色は、なるの好きな色の一つね。
「朝桐」
「はい?」
私と緋色の前に熱いお茶を置いて下がろうとしていた朝桐が、驚いて動きを止めた。
「はい、あーん」
「え?え?」
朝桐は驚いている間に口元に干菓子を運ばれて、思わず口を開けている。あらあらと見ている間に、朝桐の口に干菓子が放り込まれた。
この箱の中で一番、なるの好きな色でしょうに。
一番好きなものを、気に入った人に迷わずあげちゃうところが、なるなのよねえ。
「美味しい?」
「はい。とても美味しいです。ありがとうございます」
「えへへ」
なるが、自分の口にも一つ入れて、ふにゃと笑う。その顔を見ていると幸せな気持ちになる。なるが幸せそうで良かった、と思う。
なるの隣に座る緋色の柔らかい笑顔を見に来るように、朱実に声をかけるべきなのかしら?
今、朱実が居たら、なるはともかく緋色の笑顔は消えてしまうかしら?
様々な考えが、ぐるぐると頭の中を回る。
あれが、恐ろしくないのか、と近衛隊長にぽつりと溢したあの人に、私の横でただ、なるを、なると緋色が二人で居る様子を、見ていてほしいと思った。
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