【完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

40 五円玉の御縁  三郎

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 視線を集めていても全く動じない集団は、当たり前のようにお詣りの列に並んで、財布の中の五円玉を探して、わあわあと大騒ぎした。

「五円入れるんだよ、五円」

 財布を器用に片手で開けながら、成人なるひとさまが言う。
 お詣りの時には、御縁がありますように、と賽銭箱に五円玉を入れるんやと荘重むらしげさまに教えてもらったなあ、と思いながら巾着から財布を出す。力丸さんに買ってもらった巾着の中には、以前にもらった猿の札と、これまた力丸さんに買ってもらった厄除の御守り。七ヶ月前にここへ来たときに手にした宝物は、今も私の最も大切な宝物だ。
 そういえば今日は、猿の札はもらえなかった。あれは本来、子どもに配る品らしい。あの時は、余程はしゃいでいたからくれたんやろうか。そうやとしたら、恥ずかしい。それでも、三人でもらった札は私の宝物なんやから、もらえた幸運を喜びたい気持ちもある。

「三郎、五円あったか?」
「あ、はい」
「俺、財布に無かった。二枚ある?」
「あります」

 何となく五円玉を貯める癖がついて、小銭入れには五円玉が幾つか入っている。御縁がありますように、と無意識に祈ってるんかもしれん。

「また返すな」
「あ、いえ。返さなくてええです。以前に借りた分のお返しです」
「そうだっけ?」
「はい。たくさん借りてます」
「いや?返してもらったけどなあ」
「いいええ。全然返し足りてません」
「そうか?ま、いいや。ありがと」

 力丸さんの手に一枚載せると、素直に受け取ってくれた。やっと一つ、返せたかな?

「三郎、五円玉まだある?」
「あ、はい」

 前に並ぶ兄上の声に返事をすれば、俺も無い、と常陸丸ひたちまるさんの手も伸びる。

「ごめんね、三郎。私も一枚しか持ってなくて」

 乙羽おとわさまの言葉に、

「あるんで使つこてください」

 と、返した。私の五円玉収集癖がこんなところで役に立つとは。

「半助も無いんやろ?まだあるか?」
「え、ええ。大丈夫です」

 兄上の手にもう一枚載せれば、ありがとう、と優しい笑顔が返ってきた。

「めっちゃ持ってるな、五円玉」
「はは。なんか貯めてしもて」
「細かいお金、すぐ使うから、うちはあんまり持ってなかったわ」
「あの、五円玉だけ、何となく貯めてて」
「何で五円玉?ふふ、財布重なりそう」
「はは。実は重いです」
「あは、やっぱり?でも今、助かったなあ。ありがとうな。また返すから」
「いいええ、そんな。五円玉くらいもろてください」

 あかんあかん、返すよ、と笑った兄上は、半助の手に五円玉を一つ渡して、ほら、お礼言い、と言った。

「……ありがとう。これ、二人分の十円」
「え?あ、はい」

 半助は五円玉をポケットにしまうと、器用に片手で財布を出して十円玉を取り出し、私の手に置いた。

「あ、そうか。そうしたら良かったんか」
「これで返せたやろ」

 御縁があったような、無いような。半助が私と話してくれたんやから、五円玉の効果はあったんやな。
 
「ここで、がらがら鳴らして、かしわ手を打ってお願いするんだよ」
「お前は何を願うんだ?」 
「お願いは、人に言っちゃ駄目なんだよ、緋色ひいろ
「そうか」

 成人なるひとさまが殿下にお詣りの作法を一生懸命説明して、殿下が楽しそうに返事をしているのが聞こえてくる。
 どこに行きたい?と聞かれてここを選んだ成人なるひとさまは、以前に私たちと訪ねて楽しかった場所を、大好きな緋色ひいろ殿下にも知ってほしかったんやろうな。
 私も、また来られて良かった。私の貯めてた五円玉が神様に届いて、皆の願いが叶うとええな。

 

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