605 / 1,321
第六章 家族と暮らす
40 五円玉の御縁 三郎
しおりを挟む
視線を集めていても全く動じない集団は、当たり前のようにお詣りの列に並んで、財布の中の五円玉を探して、わあわあと大騒ぎした。
「五円入れるんだよ、五円」
財布を器用に片手で開けながら、成人さまが言う。
お詣りの時には、御縁がありますように、と賽銭箱に五円玉を入れるんやと荘重さまに教えてもらったなあ、と思いながら巾着から財布を出す。力丸さんに買ってもらった巾着の中には、以前にもらった猿の札と、これまた力丸さんに買ってもらった厄除の御守り。七ヶ月前にここへ来たときに手にした宝物は、今も私の最も大切な宝物だ。
そういえば今日は、猿の札はもらえなかった。あれは本来、子どもに配る品らしい。あの時は、余程はしゃいでいたからくれたんやろうか。そうやとしたら、恥ずかしい。それでも、三人でもらった札は私の宝物なんやから、もらえた幸運を喜びたい気持ちもある。
「三郎、五円あったか?」
「あ、はい」
「俺、財布に無かった。二枚ある?」
「あります」
何となく五円玉を貯める癖がついて、小銭入れには五円玉が幾つか入っている。御縁がありますように、と無意識に祈ってるんかもしれん。
「また返すな」
「あ、いえ。返さなくてええです。以前に借りた分のお返しです」
「そうだっけ?」
「はい。たくさん借りてます」
「いや?返してもらったけどなあ」
「いいええ。全然返し足りてません」
「そうか?ま、いいや。ありがと」
力丸さんの手に一枚載せると、素直に受け取ってくれた。やっと一つ、返せたかな?
「三郎、五円玉まだある?」
「あ、はい」
前に並ぶ兄上の声に返事をすれば、俺も無い、と常陸丸さんの手も伸びる。
「ごめんね、三郎。私も一枚しか持ってなくて」
乙羽さまの言葉に、
「あるんで使てください」
と、返した。私の五円玉収集癖がこんなところで役に立つとは。
「半助も無いんやろ?まだあるか?」
「え、ええ。大丈夫です」
兄上の手にもう一枚載せれば、ありがとう、と優しい笑顔が返ってきた。
「めっちゃ持ってるな、五円玉」
「はは。なんか貯めてしもて」
「細かいお金、すぐ使うから、うちはあんまり持ってなかったわ」
「あの、五円玉だけ、何となく貯めてて」
「何で五円玉?ふふ、財布重なりそう」
「はは。実は重いです」
「あは、やっぱり?でも今、助かったなあ。ありがとうな。また返すから」
「いいええ、そんな。五円玉くらいもろてください」
あかんあかん、返すよ、と笑った兄上は、半助の手に五円玉を一つ渡して、ほら、お礼言い、と言った。
「……ありがとう。これ、二人分の十円」
「え?あ、はい」
半助は五円玉をポケットにしまうと、器用に片手で財布を出して十円玉を取り出し、私の手に置いた。
「あ、そうか。そうしたら良かったんか」
「これで返せたやろ」
御縁があったような、無いような。半助が私と話してくれたんやから、五円玉の効果はあったんやな。
「ここで、がらがら鳴らして、かしわ手を打ってお願いするんだよ」
「お前は何を願うんだ?」
「お願いは、人に言っちゃ駄目なんだよ、緋色」
「そうか」
成人さまが殿下にお詣りの作法を一生懸命説明して、殿下が楽しそうに返事をしているのが聞こえてくる。
どこに行きたい?と聞かれてここを選んだ成人さまは、以前に私たちと訪ねて楽しかった場所を、大好きな緋色殿下にも知ってほしかったんやろうな。
私も、また来られて良かった。私の貯めてた五円玉が神様に届いて、皆の願いが叶うとええな。
「五円入れるんだよ、五円」
財布を器用に片手で開けながら、成人さまが言う。
お詣りの時には、御縁がありますように、と賽銭箱に五円玉を入れるんやと荘重さまに教えてもらったなあ、と思いながら巾着から財布を出す。力丸さんに買ってもらった巾着の中には、以前にもらった猿の札と、これまた力丸さんに買ってもらった厄除の御守り。七ヶ月前にここへ来たときに手にした宝物は、今も私の最も大切な宝物だ。
そういえば今日は、猿の札はもらえなかった。あれは本来、子どもに配る品らしい。あの時は、余程はしゃいでいたからくれたんやろうか。そうやとしたら、恥ずかしい。それでも、三人でもらった札は私の宝物なんやから、もらえた幸運を喜びたい気持ちもある。
「三郎、五円あったか?」
「あ、はい」
「俺、財布に無かった。二枚ある?」
「あります」
何となく五円玉を貯める癖がついて、小銭入れには五円玉が幾つか入っている。御縁がありますように、と無意識に祈ってるんかもしれん。
「また返すな」
「あ、いえ。返さなくてええです。以前に借りた分のお返しです」
「そうだっけ?」
「はい。たくさん借りてます」
「いや?返してもらったけどなあ」
「いいええ。全然返し足りてません」
「そうか?ま、いいや。ありがと」
力丸さんの手に一枚載せると、素直に受け取ってくれた。やっと一つ、返せたかな?
「三郎、五円玉まだある?」
「あ、はい」
前に並ぶ兄上の声に返事をすれば、俺も無い、と常陸丸さんの手も伸びる。
「ごめんね、三郎。私も一枚しか持ってなくて」
乙羽さまの言葉に、
「あるんで使てください」
と、返した。私の五円玉収集癖がこんなところで役に立つとは。
「半助も無いんやろ?まだあるか?」
「え、ええ。大丈夫です」
兄上の手にもう一枚載せれば、ありがとう、と優しい笑顔が返ってきた。
「めっちゃ持ってるな、五円玉」
「はは。なんか貯めてしもて」
「細かいお金、すぐ使うから、うちはあんまり持ってなかったわ」
「あの、五円玉だけ、何となく貯めてて」
「何で五円玉?ふふ、財布重なりそう」
「はは。実は重いです」
「あは、やっぱり?でも今、助かったなあ。ありがとうな。また返すから」
「いいええ、そんな。五円玉くらいもろてください」
あかんあかん、返すよ、と笑った兄上は、半助の手に五円玉を一つ渡して、ほら、お礼言い、と言った。
「……ありがとう。これ、二人分の十円」
「え?あ、はい」
半助は五円玉をポケットにしまうと、器用に片手で財布を出して十円玉を取り出し、私の手に置いた。
「あ、そうか。そうしたら良かったんか」
「これで返せたやろ」
御縁があったような、無いような。半助が私と話してくれたんやから、五円玉の効果はあったんやな。
「ここで、がらがら鳴らして、かしわ手を打ってお願いするんだよ」
「お前は何を願うんだ?」
「お願いは、人に言っちゃ駄目なんだよ、緋色」
「そうか」
成人さまが殿下にお詣りの作法を一生懸命説明して、殿下が楽しそうに返事をしているのが聞こえてくる。
どこに行きたい?と聞かれてここを選んだ成人さまは、以前に私たちと訪ねて楽しかった場所を、大好きな緋色殿下にも知ってほしかったんやろうな。
私も、また来られて良かった。私の貯めてた五円玉が神様に届いて、皆の願いが叶うとええな。
446
お気に入りに追加
5,083
あなたにおすすめの小説
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる