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第六章 家族と暮らす
35 一緒にあーそーぼ! 力丸
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「お待たせ致しました。事情はお聞き致しましたが、ご連絡はついておられますでしょうか?」
うちの母と同じくらいだろうか、それとももう少し上かと思われる年齢の女将が出てきて言った。
「いえ。連絡はしておりませんが、部屋をお教え頂ければ自分で参ります」
「申し訳ございません。連絡を頂いていないお客様の、お部屋へのご案内は致しかねるのですが」
あ、そうか、そうだな。
一般客であっても、何の連絡もない者を部屋へ案内できるわけがない。ましてや、高貴なお方の部屋へなんて。
「あの。一ノ瀬荘重さまを呼んで頂けるとありがたいのですが」
仕方なく名前を出せば、ふっと背後に人が立つ。そろそろ居ると思ってたんだー。
はあ、とわざとらしいため息が聞こえて、背後に立たれていることに気付いていなかった三郎が、ひえ、と小さな悲鳴を上げた。
「おはようございます、荘重さま。来ちゃった」
「早かったな」
「この先は、探すのが大変ですもん」
「朝食は?」
「まだです」
元気よく言えば、呆れた顔がこちらを見ている。最近、すっかり表情豊かですね。怖さ半減してて助かる。
「女将、殿下の部屋に二人分の朝食を追加できるか?」
「は……。あ、ええ、大丈夫です」
「お代はこやつに払わせる」
「げ」
「あ、ああ、あの。私の分は私が」
「三郎さまは気にしなくてよろしい」
三郎が、三郎さまと言われて居心地悪そうにうつ向くが、仕方ない。九条だものな。しまったな。俺、先ほど呼び捨てしてしまった。
ま、いいか。今は俺、休みだし、友だちだし。そういや、成人って正式には殿下呼びか?うーん……。
城でだけ、気をつけよう。
「殿下のお部屋でよろしいのですか?」
「ええ、そちらで」
「畏まりました。案内は?」
「不要。行くぞ、力丸」
「はい」
頭を下げている女将に、お騒がせしました、と頭を下げる。三郎もぺこりと頭を下げた。手は繋いだまま、荘重さまに続く。
立派な宿の、特別豪華な一画にある部屋を遠慮なく開けて入る。荘重さまが入れてくれるということは、緋色殿下と成人は起きてるんだな。今日は遅いかと思ったけど。
広い部屋は、がらんと片付いていて温泉の匂いがした。寝室は別だから入っても問題ないのか、と思っていると、からりと外付けの扉が開く。
「あ、力丸と三郎。おはよ。じいやも、おはよ」
ほかほかと湯気の上がった成人が、パーカー姿で現れた。殿下とお揃いの、格好いい服だな。控えめな赤い模様が帽子の裏や、袖の先に付いている。
「おはようございます」
「おはようございます」
「おはよ。風呂入ってたのか?いいなあ」
三郎と荘重さまが姿勢を正して挨拶するのを横目に、成人にひょいと抱きつくと、えへへと笑って右腕を俺の背中に回してくれた。
あー、いい匂い。
俺はくまのパーカーの方が好きだなー。
「気持ちいいことして寝ちゃったから、今、お風呂入ってた」
あー、はいはい。言わんでよろしい。首もとに赤いうっ血が見えるわ。
ばしん、と頭を叩かれて成人を離す。うう。結構、痛かった。
成人は、お茶飲む、と言いながら冷蔵庫へ向かう。すごいな、この部屋。冷蔵庫もあるんだな。
「殿下、おはようございます」
見上げた緋色殿下は上半身裸で、手ぬぐいを首にかけている。
情事の後の、赤いうっ血や引っ掻き傷が見えるから、服を着てくれませんかね。
「遅かったな」
むかあ。
「休みじゃないと来れないので!ていうか、置いていかないでくださいよ!」
「はは。そのうち来ると思って」
「来たけど」
「あの、あの、殿下。おはようございます」
「おう、おはよう。三郎も来たのか。温泉、入ってこい」
やっと口を挟めた三郎が、殿下の言葉に、へ?と間抜けな声を上げた。
やった!いいの?この、部屋付きの露天風呂、入っていいの?
「やった!温泉入る!」
「おう、行ってこい。荘重も入ってくればいい。こっちは、朝飯を食べておく」
機嫌の良い魔王さま、最高!
あ、でも。
「俺たちも朝飯も食べます。風呂入ってる間に置いていかないでくださいよ!成人、今日、一緒に遊ぼうな!」
「うん。一緒に遊ぶー」
成人の返事にほっとして風呂へ向かった俺の視界の端で。
緋色殿下は、にやって悪い顔で笑った。
もうっ!
今置いてったら、見つけて一緒に遊ぶまで帰らないからな!
うちの母と同じくらいだろうか、それとももう少し上かと思われる年齢の女将が出てきて言った。
「いえ。連絡はしておりませんが、部屋をお教え頂ければ自分で参ります」
「申し訳ございません。連絡を頂いていないお客様の、お部屋へのご案内は致しかねるのですが」
あ、そうか、そうだな。
一般客であっても、何の連絡もない者を部屋へ案内できるわけがない。ましてや、高貴なお方の部屋へなんて。
「あの。一ノ瀬荘重さまを呼んで頂けるとありがたいのですが」
仕方なく名前を出せば、ふっと背後に人が立つ。そろそろ居ると思ってたんだー。
はあ、とわざとらしいため息が聞こえて、背後に立たれていることに気付いていなかった三郎が、ひえ、と小さな悲鳴を上げた。
「おはようございます、荘重さま。来ちゃった」
「早かったな」
「この先は、探すのが大変ですもん」
「朝食は?」
「まだです」
元気よく言えば、呆れた顔がこちらを見ている。最近、すっかり表情豊かですね。怖さ半減してて助かる。
「女将、殿下の部屋に二人分の朝食を追加できるか?」
「は……。あ、ええ、大丈夫です」
「お代はこやつに払わせる」
「げ」
「あ、ああ、あの。私の分は私が」
「三郎さまは気にしなくてよろしい」
三郎が、三郎さまと言われて居心地悪そうにうつ向くが、仕方ない。九条だものな。しまったな。俺、先ほど呼び捨てしてしまった。
ま、いいか。今は俺、休みだし、友だちだし。そういや、成人って正式には殿下呼びか?うーん……。
城でだけ、気をつけよう。
「殿下のお部屋でよろしいのですか?」
「ええ、そちらで」
「畏まりました。案内は?」
「不要。行くぞ、力丸」
「はい」
頭を下げている女将に、お騒がせしました、と頭を下げる。三郎もぺこりと頭を下げた。手は繋いだまま、荘重さまに続く。
立派な宿の、特別豪華な一画にある部屋を遠慮なく開けて入る。荘重さまが入れてくれるということは、緋色殿下と成人は起きてるんだな。今日は遅いかと思ったけど。
広い部屋は、がらんと片付いていて温泉の匂いがした。寝室は別だから入っても問題ないのか、と思っていると、からりと外付けの扉が開く。
「あ、力丸と三郎。おはよ。じいやも、おはよ」
ほかほかと湯気の上がった成人が、パーカー姿で現れた。殿下とお揃いの、格好いい服だな。控えめな赤い模様が帽子の裏や、袖の先に付いている。
「おはようございます」
「おはようございます」
「おはよ。風呂入ってたのか?いいなあ」
三郎と荘重さまが姿勢を正して挨拶するのを横目に、成人にひょいと抱きつくと、えへへと笑って右腕を俺の背中に回してくれた。
あー、いい匂い。
俺はくまのパーカーの方が好きだなー。
「気持ちいいことして寝ちゃったから、今、お風呂入ってた」
あー、はいはい。言わんでよろしい。首もとに赤いうっ血が見えるわ。
ばしん、と頭を叩かれて成人を離す。うう。結構、痛かった。
成人は、お茶飲む、と言いながら冷蔵庫へ向かう。すごいな、この部屋。冷蔵庫もあるんだな。
「殿下、おはようございます」
見上げた緋色殿下は上半身裸で、手ぬぐいを首にかけている。
情事の後の、赤いうっ血や引っ掻き傷が見えるから、服を着てくれませんかね。
「遅かったな」
むかあ。
「休みじゃないと来れないので!ていうか、置いていかないでくださいよ!」
「はは。そのうち来ると思って」
「来たけど」
「あの、あの、殿下。おはようございます」
「おう、おはよう。三郎も来たのか。温泉、入ってこい」
やっと口を挟めた三郎が、殿下の言葉に、へ?と間抜けな声を上げた。
やった!いいの?この、部屋付きの露天風呂、入っていいの?
「やった!温泉入る!」
「おう、行ってこい。荘重も入ってくればいい。こっちは、朝飯を食べておく」
機嫌の良い魔王さま、最高!
あ、でも。
「俺たちも朝飯も食べます。風呂入ってる間に置いていかないでくださいよ!成人、今日、一緒に遊ぼうな!」
「うん。一緒に遊ぶー」
成人の返事にほっとして風呂へ向かった俺の視界の端で。
緋色殿下は、にやって悪い顔で笑った。
もうっ!
今置いてったら、見つけて一緒に遊ぶまで帰らないからな!
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