【完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

27 留守番の朝  力丸

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「時間がかかる?」

 朝、朱実あけみ殿下は挨拶もそこそこに緋色ひいろ殿下を呼んで来て欲しい、と言った。俺は、時間がかかります、と答えるしかない。

「はい。たぶん、いつもの温泉宿か動物園だと思うんで。そうですね、往復三時間……と説得の時間、休憩時間も欲しいです。半日で連れ帰れたら褒めてください」
「は?え?家にいない?」
「いませんよ」

 胸に沸き上がるむかむかを抑えきれずに、ぶっきらぼうな物言いになってしまう。
 くそー。成人なるひとの護衛、なんで半助はんすけなんだよ。俺でいいじゃん。

「朝出たのか?いや、昨日すぐに結婚休暇届は返しただろう?」
「俺が家に帰った時にはもう、いなかったです」

 謁見室で、祝いの言葉を述べるお偉いさん達を眺めている間に、行っちまいましたよーっと。あー、昨日俺が休みだったら、連れてってもらえたのかなあ。くそー。明日休みだから、追いかけようかな。成人なるひとと義姉上の体力合わせだから、そんなにすぐ移動しないだろ。今日は動物園で間違いない。そのまま、同じ宿にもう一泊。問題はその後だな。結婚休暇って最大七日間取れるんだっけ?緋色ひいろ殿下は絶対、目一杯使う。じゃあきっとそのまま動物園の向こう側に行く。なら、どこだ?

「では、結婚休暇を取っているってことか?許可していないのに?」

 あああ、もう。
 今、緋色ひいろ殿下と兄上の行動を読んでるんだから邪魔しないで欲しい。

「まあ、結婚したら結婚休暇は取れるものですし」
「結婚……」
「何か、婚姻届が受理されていなかったのが、昨日受理されたらしいので間違ってはいないかと」
緋色ひいろはとうに、結婚記念の旅行なんて行ったじゃないか」
「行きましたねえ。赤璃あかり殿下が成人なるひとに教えた新婚旅行。兄上と義姉上も一緒に行きました。成人なるひと、嬉しすぎて楽しすぎて、新婚旅行は温泉と動物園に行くもんだと思ってますし、周りに勧めて回ってましたもん。で、緋椀ひまりさまも広末ひろすえもお勧めの温泉に行って、良かった良かったってまた知り合いに勧めて……。あー!」

 そういうことか!

「な、なんだ?」
「あ、すいません。いえ、えーと、半助はんすけ連れてったのってそういうことかと思いまして」
半助はんすけを連れていった……」
「はい。成人なるひとに護衛付けるって話で、緋色ひいろ殿下が半助はんすけを選んだって言うから、何でだよって思ってたけど、新婚旅行じゃん。壱臣いちおみさんもいなかったもん。あー、もう。なんだよ。いいなあ、くそっ」

 はあ。じゃあまあ、仕方ないか。
 あ、連れ戻して来いって言うなら、追いかけます。連れて帰れる気はしないけど、一応、仕事はします!えーと、命令書があれば届けて、帰って来てくださいってお願いの姿勢は貫きます。
 行きたいな、とわくわくしながら朱実あけみ殿下の前でぴしりと姿勢を正して待つ。

「あ、あの」

 隣で大きな体が困ったように揺れる。
 あ、忘れてた。

朱実あけみ殿下。半助はんすけの代わりに本日、俺と護衛を務めます。禅院ぜんいん武瑠たけるです」
「よろしくお願いします」

 がちがちに緊張した大きな体が包拳礼の形で固まった。いや、そんなに緊張してたら動けないぞ……。
 これを朱実あけみ殿下の側に置いて出掛けるのは無理かあ。
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