【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

22 何して遊ぼう  緋色

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「わーい、温泉!」
「こんにちは、お世話になります」

 はしゃぐ成人なるひと乙羽おとわが、二人で手を繋いでいつもの宿の玄関へと歩いていった。
 昼過ぎに連絡をしてすぐに離宮を出たというのに、宿の玄関前には数人の使用人が並んで出迎えている。

「女将、急な話ですまんな。いつもの部屋でなくても構わんぞ」
「いらっしゃいませ、緋色ひいろ殿下。ちょうど、今日から三日間、いつものお部屋が空いておりました。殿下には、うちの宿帳が見えていらっしゃるのかと思って、少し恐ろしくなってございましたよ」
「ははは。俺にそんな特別な力は無いぞ。まあ、ならちょうど良かった。三日間使わせてくれ」
「畏まりました。お連れ様のお部屋もいつものようにお手配致します」

 女将は、落ち着いた様子で対応してくれる。本当に三日間空いていたのかは知らんが、貸してくれるというなら有り難く使わせてもらおう。

「で、で、殿下。うち、うち、こんな上等なとこ、困る……」

 後ろから、荷物を手に付いてきていた壱臣いちおみが、宿を見上げて震えている。寄り添う半助はんすけも、無言で宿を見上げている。

「ああ、女将。この二人も夫婦めおと風呂のある部屋を頼む。食事はうちの部屋で一緒にとる。五人前でいい」
「畏まりました」
「殿下ぁぁ」
壱臣いちおみ、俺が全部払ってやるから気にするな。半助はんすけの給金も出るし、心配いらん」
半助はんすけの仕事って……」
成人なるひとに近衛隊から一人護衛をつけろって言うから半助はんすけを借りた。気にしなくていい、口実だ」
「そ、そ、そんなはっきりきっぱり……」
「明日は動物園行くぞ、動物園。行ったことあるか?」
「な、な、ないですぅ」

 半助はんすけが左手の荷物を下ろして、ぽんぼんと壱臣いちおみの背中をなだめ始める。

「この宿の飯は、成人なるひとのお気に入りだぞ」

 常陸丸ひたちまるの言葉に、ようやく壱臣いちおみの反応が変わった。

「え?成人なるひとくんのお気に入り?広末ひろすえさんが作ったもんやないのに?」
「そうそう。外の飯で、心配なく渡せるのはここくらいだ」
「へええ。懐石料理ですか?あ、旅行土産のお品書き?」
「それそれ。成人なるひと、お品書きがあれば全部持って帰ってるだろ?」
「はい。ああ、いつも美味しいと教えてくれるとこの。ここ?」
「そうだぞ。広末ひろすえも家族で一回来てる」
「あ。味見できるの、嬉しいです」

 壱臣いちおみはようやく、ほっとした顔になって荷物を抱え直した。

「だろ?二人とも、仕事のついでにしといたから、何も心配しなくていい」
「殿下……」
「よし。部屋で休もう。もともと今日は、二人とも休みだっただろう?急に連れ出して悪かったな」
「いえ、いいえ。何も予定無かったし」
「部屋にも温泉があるからな。存分に楽しめ」
「温泉……」
「初めてか?」
「えへへ。初めてです」
緋色ひいろ、早くー」

 すっかり部屋の位置を覚えている成人なるひと乙羽おとわが、すたすたと宿の中へ入っていく。

「もうお風呂入っちゃう?」
「入る入る」
「うふふ、楽しみー」

 成人なるひとの戸籍が無かったことに気付いたときは、あの入り口を出入りしやすくしてしまいそうだったが、こうなってみるとツイてたな。結婚休暇が取れるなんて、最高だ。
 この宿は三日間かあ。
 その後、九鬼くきの領地の観光巡りに行ってもいいな。
 
「夕食は、うちの部屋に集合な。それまで解散」
「了解っす」
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