585 / 1,321
第六章 家族と暮らす
20 前へ 朱実
しおりを挟む
あれは、敵の兵器だった。はっきりと確かめられてはいないが、うちの兵士を幾人も殺したに違いない兵器だったのだ。
今、人の子のように過ごしているからといって、簡単に人扱いできるものではない。緋色は一体いつになったら目を覚ましてくれるのだろう……。
「お寛ぎのところ、申し訳ございません」
す、と侍女が寄ってくる。
「近衛隊長が、皇太子殿下にお話を、と」
「ああ」
お互いの時間が合わず、今日は話すことを諦めていたが、わざわざ訪ねて来てくれたのか。
「会おう」
立ち上がりかける私の手を、赤璃が押さえた。
「ここでお話を聞けばいいわ。授乳はすんだし」
「あ、いや、少し出てくる」
「お願い、少し待って」
見ると朱音は、乳を咥えたまま動きを止めている。赤璃は慣れた仕草でその頬をつついて口を離させると、手早く自らの服を元に戻し、縦に抱き上げた。せっかく寝ているのに?と思ってみていると、優しく背中をとん、とん、とん、と叩く。幾度か繰り返すと、朱音の口からけぽり、と音がして飲んだ乳が少しこぼれ出た。
「あ」
「ふふ。上手」
焦った私をよそに、優しく笑った赤璃が横向きに抱き直す。朱音の乳の付いた口元を優しく拭いて、寝やすいように抱え直す様子をただ見ていた。
「布団へは置かないのか?」
「すぐに置いたらぐずるのよ。少し腕の中で安心させてから移すわね」
これとよく似た会話を緋色としたような気がする。
そう。成人だ。あれはよく、緋色の胸にうつ伏せて寝るのだ。
すぐに離すとぐずるからな。しばらくこのまま寝かせてやるんだよ。
口元を緩めながらそんなことを言っていた……。
「失礼します」
余計なことを考えていたら、近衛隊長が部屋へと入室してきてしまった。
しまったな。別の部屋へと移動するつもりが。
「この度は、皇子殿下のご誕生、誠におめでとうございます」
ぴしりと綺麗な包拳礼を決めて、禅院守武が立っている。
「ああ、ありがとう。わざわざ足を運ばせてすまなかったね。座ってくれ」
「は」
どうにも予定通りに進まない事態というのはままあるものだ。それが、ひと息に押し寄せてくるというのが頂けないが、慌ててもどうにもならぬ。起きた出来事を変えられぬ以上、この先を自分にとって良いように動かしていくしかないのだから。
「今日の出来事を教えてくれるかな?」
今、人の子のように過ごしているからといって、簡単に人扱いできるものではない。緋色は一体いつになったら目を覚ましてくれるのだろう……。
「お寛ぎのところ、申し訳ございません」
す、と侍女が寄ってくる。
「近衛隊長が、皇太子殿下にお話を、と」
「ああ」
お互いの時間が合わず、今日は話すことを諦めていたが、わざわざ訪ねて来てくれたのか。
「会おう」
立ち上がりかける私の手を、赤璃が押さえた。
「ここでお話を聞けばいいわ。授乳はすんだし」
「あ、いや、少し出てくる」
「お願い、少し待って」
見ると朱音は、乳を咥えたまま動きを止めている。赤璃は慣れた仕草でその頬をつついて口を離させると、手早く自らの服を元に戻し、縦に抱き上げた。せっかく寝ているのに?と思ってみていると、優しく背中をとん、とん、とん、と叩く。幾度か繰り返すと、朱音の口からけぽり、と音がして飲んだ乳が少しこぼれ出た。
「あ」
「ふふ。上手」
焦った私をよそに、優しく笑った赤璃が横向きに抱き直す。朱音の乳の付いた口元を優しく拭いて、寝やすいように抱え直す様子をただ見ていた。
「布団へは置かないのか?」
「すぐに置いたらぐずるのよ。少し腕の中で安心させてから移すわね」
これとよく似た会話を緋色としたような気がする。
そう。成人だ。あれはよく、緋色の胸にうつ伏せて寝るのだ。
すぐに離すとぐずるからな。しばらくこのまま寝かせてやるんだよ。
口元を緩めながらそんなことを言っていた……。
「失礼します」
余計なことを考えていたら、近衛隊長が部屋へと入室してきてしまった。
しまったな。別の部屋へと移動するつもりが。
「この度は、皇子殿下のご誕生、誠におめでとうございます」
ぴしりと綺麗な包拳礼を決めて、禅院守武が立っている。
「ああ、ありがとう。わざわざ足を運ばせてすまなかったね。座ってくれ」
「は」
どうにも予定通りに進まない事態というのはままあるものだ。それが、ひと息に押し寄せてくるというのが頂けないが、慌ててもどうにもならぬ。起きた出来事を変えられぬ以上、この先を自分にとって良いように動かしていくしかないのだから。
「今日の出来事を教えてくれるかな?」
436
お気に入りに追加
5,083
あなたにおすすめの小説
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される
ぶんぐ
BL
社畜リーマンは、階段から落ちたと思ったら…なんと異世界に転移していた!みんな魔法が使える世界で、俺だけ全く魔法が使えず、おまけにみんなには避けられてしまう。それでも頑張るぞ!って思ってたら、なぜか冷徹王子から口説かれてるんだけど?──
嫌われ→愛され 不憫受け 美形×平凡 要素があります。
※総愛され気味の描写が出てきますが、CPは1つだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる