【完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

18 緋色の答え  朱実

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 頭の中で、話を整理する。
 昨日さくじつ、正面の入り口は大変に混んでいた。
 それはそうだろう。今、城は千客万来だ。皇子誕生の祝賀に湧いて、皆忙しい。我が子が生まれたと発表した翌日から、城の門前に人々が殺到している。記帳台が設けられ、祝いの署名を書きに来てくれる皇都民もたくさんいると聞く。
 そんな中、一人で城へと訪ねてきた成人なるひとを手早く城内に入れようと、荘重むらしげが皇族専用入り口へ案内した。そこを守る近衛兵は、成人なるひとはここから入れないと言った。
 以前、近衛隊長に、名簿には載せぬが監視付きで入城可と伝えてあった成人なるひとの処遇が、近衛隊の再編成時に引き継ぎできていなかったらしい。新しい隊長は真面目に調べた上で、成人なるひと緋色ひいろの愛し子として丁重に扱いはするが、皇族としては扱えないため、皇族専用入り口の使用は不可としたようだ。
 成人なるひとは、入れないなら仕方ない、とすんなり帰宅したが、翌日、それを知った緋色ひいろが、何故皇子妃である成人なるひとが皇族専用入り口から入城できないのかと確認に来た。その過程で、成人なるひとが皇族として登録されていない可能性に気付いてしまった。
 そのまま戸籍課へ足を運んで、以前提出した婚姻届に不備があったようだと聞き、再度その場で婚姻届を作成し提出した。何故その時私に話がこなかったのかと尋ねれば、新しい戸籍課の部署長が、必要ないと判断したという。
 そういえば、婚姻届を預かるにあたって声をかけていた戸籍課の部署長も、定年退職で引退したのだったか。戸籍の写しを見れば、作成者は八条薫とある。八条か……。戸籍課の部署長を他部署から、二つ返事で引き受けてくれる者があったと聞いて、有り難いことだと思っていたが、が乗り気である時には注意が必要だった。八条は、やりたいことをやる。緋色ひいろと非常に相性が良い。話しているうちに意気投合して、きっと祝福しながら戸籍を作成したことだろう。
 書類上、成人なるひとはもう十八歳になっている。誰の承認がいるものか、とでも言ったのではないか。
 はあ、と深いため息を一つ。
 それで、緋色ひいろが私へ出した答えが結婚休暇届。
 結婚しました、との報告のつもりか?結婚してたつもりがしていなかった、との抗議のつもりか?それら全てなのか?それとも単純に、使える休暇を使っただけ?
 ……。
 情報を整理し、対象の人物の行動や性格を考え合わせれば、自分に向けられた感情など容易く読み取ることができるというのに。事実、外したことなどない。ましてや今回の対象者は、誰よりよく分かっている大切な弟のことだ。
 怒って私のもとを訪ねることもなく、これを提出して帰ったのか?
 いっそ怒鳴りこんできてくれたなら、何とでも言いくるめることができただろう。忘れていた、すまない、と丁寧に謝って、盛大に祝福しつつ誤魔化す手もあったろう。
 
「この届け出は、今は承認できない。忙しいから休まれては困る」
「は。では、そのように一筆したためて頂けますか?朱実あけみ殿下の直筆を添えて、緋色ひいろ殿下へ差し戻すことと致します」
「分かった、頼む」

 何故だろう。
 考えても考えても、緋色ひいろの私への感情が見えてこない。

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