【完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

15 気にかけることさえ無駄な時間  緋色

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「ご結婚、おめでとうございます!」

 朗らかに八条かおるに言われると、じわじわと喜びが湧いてくる。とうに結婚していたつもりだったが、実際の戸籍を見るとこう、なんというか、嬉しいもんだな。

「ありがとー」

 成人なるひとも満面の笑みだ。

「はっ。つまり今日は初夜か?」
「何言ってんすか。そんなわけ無いでしょう。もう何年も一緒に居るのに」
「初夜?」
「結婚して初めての、二人で共に眠る夜だな」
「おおー。今日が初夜なの?」
「そうそう」
「特別?」
「そう、特別」

 額にキスしてやると、嬉しそうに右目が細くなる。常陸丸ひたちまるの呆れ顔は無視だ。

「結婚休暇を取って、旅行に行こう」
「やったー」
乙羽おとわもいいっすか」
「いいに決まってるだろ」
「やったー」

 常陸丸ひたちまるお前、成人なるひとと喜び方が一緒だぞ。
 さて、いつまでもここで業務の邪魔をするわけにはいかない。

「こちらの名簿と文書の訂正は近衛隊か」
「そうですね。たぶん、成人なるひとさまの戸籍が無いことから、苦肉の策での愛し子呼びかと思われます」
「へえ?」
緋色ひいろ殿下が伴侶と呼び、両陛下もそれを認めて赤い服を着用されている方であるのに、調べたら戸籍が存在しなかったのだから、さぞかし困惑されたのだと愚考致します」
「ははあ。成る程」

 八条薫の考察に、常陸丸ひたちまるが口を挟む。

「あれだ。近衛隊の隊長が代わったから、改めて調べたら成人なるひとの戸籍が無くて難儀したとか、そんな感じかも」
「隊長代わったのか?」
「代わりましたよ。東院とういん家が皇家筆頭護衛から外されたでしょう?その後から、東院とういん家主体だった近衛隊の大幅な再編成が行われて、禅院ぜんいん家の者が隊長に選ばれました。ようやく落ち着いてきたところだと思いますよ」
「ふーん」
「うわ、興味無さそう。朱実あけみ殿下が離宮うちに来て、緋色ひいろ殿下に銃を向けたのを止めた時に、皇家筆頭護衛の任を解くと宣言したもんだから、俺は東院とういん家から余計な恨みをかってるってのに」
「そりゃご苦労なことだ」

 先ほども言っていた、成人なるひとが初めて飲んだミックスジュースを全部吐いてしまった日だな。
 あの時……。
 そうだ、あの時。
 朱実あけみは迷いもなく銃を向けた。
 にこやかに笑いながら、撃てるなら撃つつもりだった?
 まさかな。
 成人なるひとの存在を、戦争後の俺の、一時いっときの精神ケアのつもりで見ていたか。
 まあいい。
 戸籍の件はたまたま発覚した事実だったが、それは正すことができた。ついさっきまで、朱実あけみに一言二言文句をつけてやろうかと思っていたが。
 
「あんなやつ、どうでもいいか」

 それより温泉へ行く計画を練る方が、よほど楽しい。
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