【完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

7 いい一日の始まり  成人

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「へへへ」

 つい隣を見上げては、嬉しくなってしまう。

「前を見て歩けよ」
「うん」

 緋色ひいろとお出かけ、久しぶり。お城まで歩くだけだけど、それでも嬉しい。

「進まねえ……」

 常陸丸ひたちまるが少し後ろでぼそぼそ言ってるけど、気にしなーい。

「殿下、遅刻しますよ。抱いてったらどうです?」
「いや!」
「なら、もう少しちゃきちゃき歩け」
「歩いてる」

 歩いてるよ。俺はいつも通り歩いてるの。時々、蝶々を探す代わりに、格好いい緋色ひいろを見てるだけなの。

「…………」
「何?」
「お前、いや、とか言うんだな」
「?」
「はあ。まあ、いいや」

 常陸丸ひたちまるは護衛らしい軍服だけど、のんびり歩いている。見えてないけど、じいやも近くにいるし、他に人の気配がしないから気を張っていないんだろう。本当に強い人は、常に気を張っていたりしない。力の使いどころを知っている人が強い人。こういうときにのんびり歩ける常陸丸ひたちまるは、やっぱりとても強い。
 だいたい、遅くなったのは緋色ひいろがなかなか起きなかったからだと思う。
 明日は正装して一緒に歩いてお城に行くぞ、って緋色ひいろが言ったから、じゃあ、早く起きなきゃねって言いながら寝たんだよ。俺は、お風呂の時から眠たかったけど、それならといつもより早い時間に目覚まし時計を合わせてから寝た。
 なのに緋色ひいろは、目覚まし時計の音では全然起きなくて、朝だよ、時間だよ、と体を揺らしてたら、伸びてきた手にもう一回布団に引きずり込まれた。寝ぼけてるから力が強くて抜け出せないし、また寝始めるし、もう諦めてたら、常陸丸ひたちまるが様子を見に来て助けてくれた。流石、緋色ひいろのことをよく分かってる。起こすのも上手だし、様子を見に来る時間も完璧。
 俺が起こしたかったからちょっと嫌だったけど、あのままだったら緋色ひいろが起きるまで抜け出せなかったから仕方ない。むー。
 そしていつの間にか、今日の予定は伝わってたらしい。お風呂から寝るまでの間に言ってた話なのに、正装が準備されてて、朝ごはんもいつもより早くに準備されてた。
 それでも今、ちゃきちゃき歩けって言われてるけど。

「遅刻もくそもねえよ。他所よその仕事の手伝いなんだから。何時に来いとか言われてないし」

 緋色ひいろが、起きた後からしっかり目が覚めるまでの時間が嘘みたいに機嫌良く、俺の頭を撫でる。

「まあ、殿下がいいならいいんですけどね。仕事は溜まってますよ、きっと」
「溜まってるのは朱実あけみの仕事だ。俺のじゃない」
「そういや、そうです」
「だろ?」
「そろそろ休みもらってもいいかもしれないっすね」
「だろ?」
「皇子殿下が生まれたばかりだし、もう少し後の方が良かった気もするけど」
「いつでも一緒だ。先に手を出したのはあっちだし」
「そうなりますねえ」
「そうでしかない」

 よく分からないけど、常陸丸ひたちまるはいつだって緋色ひいろに賛成なんだ。もちろん、俺も。たぶん、じいやも。

「お休みもらうの?」
「おう。温泉行くか?」
「やった!動物園も!」
「よし、決まりだ」

 今日も朝から、嬉しいことばかりだな。
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