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第六章 家族と暮らす
3 寝る前のひととき 緋色
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「分かった。ちゃんとお手紙出してから行くね。母さまの所も」
朱実との話を伝えると、うんうんと頷きながら聞いていた成人が生真面目な顔で答えた。
「お城に行くときは、そうした方がいいって教えてもらってたのに、ちゃんとしてなかったんだ。ごめんね、緋色」
「いや……」
俺も大概、先触れなどは出さないから、何とも言えない。まあ、俺から家族に会いに行くということがほとんど無いので、先触れもくそもないのだが。
そう考えると、成人の方が余程、実家へ帰って、母上や義姉である赤璃と会っているのかもしれない。
「今度、許可が下りたら俺も一緒に行こう」
「お仕事は?」
「少しくらい休んでもいいだろう」
「へへ。赤璃さま、喜ぶかな?」
「嫌がるんじゃないか?」
「ええ?なんで?」
「お前をひとり占めできないから」
「なに、それー?」
先ほどまでの、少し申し訳なさそうな顔が、笑い顔に変わる。
いつの間に、そうして感情を面に出せるようになっていたんだろう。無表情に近い頃は、喋りもしなかった頃は、お前の心情をどうやって見分けていたんだったか。
「なあに?」
何もかもを知りたくてじっと見つめていると、ちゃんと言葉を返してくる。
ああ。あの頃、お前の思考はもっと単純で、ただただ幸せそうだった。
今は、どうだ?
ちゃんと幸せか?
「うちでも金魚を飼うか?」
ぱっと一瞬喜んだが、あー、うー、と唸りながら悩み始めた。
「でも、俺の金魚がいたら、母さまの金魚に会う時間が無くなってしまうから、うーん……」
「そうか」
母上は、金魚で成人を呼び寄せて、ついでに俺を呼び寄せている。まあ、それで母上の気分が晴れるのなら、成人を迎えに行くくらい容易いものだが。
ここで悩むということは、成人もまた、母上の思惑を分かっていて訪ねてくれているということなのだろうか。
「何で笑ってるの?」
「いや」
ととと、と寄ってきて腕の中に収まった。以前は、二人で部屋にいると、とにかくくっついていることが多かったが、最近は、話すときは少し離れて顔を見ている。抱こうとしたら少し距離をあけられて驚いたのも懐かしいことだ。
抱っこすると顔が見えない、らしい。
確かになあ。
俺は見下ろせるが、腕の中にすっぽり収まったお前からは、見にくいのかもな。
寝る前の、今日何をしていた?と尋ねるひとときも、少しずつ形を変えていく。
風呂がすんだら、すぐに寝てしまっていた頃があった。ぽつぽつとした単語から、何をして過ごしていたのか予想していた頃があった。楽しいことがあった日は、話したいことに言葉が追い付かず、要領を得ないが一生懸命話しているのを聞いていた頃があった。
少しずつ変わっても、いつも、ぺたりとくっついて安心しきった様子でそこにいた。
今は、少し離れて顔を見ながら、それなりに分かる話を聞く。満足すると、こうしてくっつくところは変わらない。離れていると寂しいのは、俺の方なのだろう。
どんな形でもいい。
こうして一日の終わりにくっついていられれば。
腕の中のぬくもりに、ほっと力を抜く。
こういうのを、幸せな日々と言うんだろう。
朱実との話を伝えると、うんうんと頷きながら聞いていた成人が生真面目な顔で答えた。
「お城に行くときは、そうした方がいいって教えてもらってたのに、ちゃんとしてなかったんだ。ごめんね、緋色」
「いや……」
俺も大概、先触れなどは出さないから、何とも言えない。まあ、俺から家族に会いに行くということがほとんど無いので、先触れもくそもないのだが。
そう考えると、成人の方が余程、実家へ帰って、母上や義姉である赤璃と会っているのかもしれない。
「今度、許可が下りたら俺も一緒に行こう」
「お仕事は?」
「少しくらい休んでもいいだろう」
「へへ。赤璃さま、喜ぶかな?」
「嫌がるんじゃないか?」
「ええ?なんで?」
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「なに、それー?」
先ほどまでの、少し申し訳なさそうな顔が、笑い顔に変わる。
いつの間に、そうして感情を面に出せるようになっていたんだろう。無表情に近い頃は、喋りもしなかった頃は、お前の心情をどうやって見分けていたんだったか。
「なあに?」
何もかもを知りたくてじっと見つめていると、ちゃんと言葉を返してくる。
ああ。あの頃、お前の思考はもっと単純で、ただただ幸せそうだった。
今は、どうだ?
ちゃんと幸せか?
「うちでも金魚を飼うか?」
ぱっと一瞬喜んだが、あー、うー、と唸りながら悩み始めた。
「でも、俺の金魚がいたら、母さまの金魚に会う時間が無くなってしまうから、うーん……」
「そうか」
母上は、金魚で成人を呼び寄せて、ついでに俺を呼び寄せている。まあ、それで母上の気分が晴れるのなら、成人を迎えに行くくらい容易いものだが。
ここで悩むということは、成人もまた、母上の思惑を分かっていて訪ねてくれているということなのだろうか。
「何で笑ってるの?」
「いや」
ととと、と寄ってきて腕の中に収まった。以前は、二人で部屋にいると、とにかくくっついていることが多かったが、最近は、話すときは少し離れて顔を見ている。抱こうとしたら少し距離をあけられて驚いたのも懐かしいことだ。
抱っこすると顔が見えない、らしい。
確かになあ。
俺は見下ろせるが、腕の中にすっぽり収まったお前からは、見にくいのかもな。
寝る前の、今日何をしていた?と尋ねるひとときも、少しずつ形を変えていく。
風呂がすんだら、すぐに寝てしまっていた頃があった。ぽつぽつとした単語から、何をして過ごしていたのか予想していた頃があった。楽しいことがあった日は、話したいことに言葉が追い付かず、要領を得ないが一生懸命話しているのを聞いていた頃があった。
少しずつ変わっても、いつも、ぺたりとくっついて安心しきった様子でそこにいた。
今は、少し離れて顔を見ながら、それなりに分かる話を聞く。満足すると、こうしてくっつくところは変わらない。離れていると寂しいのは、俺の方なのだろう。
どんな形でもいい。
こうして一日の終わりにくっついていられれば。
腕の中のぬくもりに、ほっと力を抜く。
こういうのを、幸せな日々と言うんだろう。
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