【完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

207 たこ焼き屋さんは大盛況  成人

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「こら。お前は外に出るな」

 たこ焼き屋さんにすっかり行列ができた頃に、緋色ひいろ常陸丸ひたちまるとお城の方から歩いてきた。
 並んでいた人たちが、一斉に背筋を伸ばして包拳礼をする。

「ああ。気にするな」

 と、緋色ひいろが手を上げると、また元のように戻った。ざっと音がしそうに揃った動きが格好いい。警備隊の人たちは、動きがびしっとしてて格好いいな。所々に、お城の使用人の格好をした女の人も混じっているけれど、その人たちも、綺麗な仕草で礼を取っていた。
 緋色ひいろは、急ぎ足で俺の方に向かってくる。
 おうちには入らないよ!俺、今、最高に楽しい。
 だから俺は、緋色ひいろに気付いてないふりして、行列の一番前の人に、いらっしゃいませって言う。

緋色ひいろ。まさか私も並ぶのかい」

 行列の一番後ろから声がして、並んでいた人たちが、ざざっと後ろを向いてまた、包拳礼の姿勢になった。

「当たり前だろう。残ってるといいな、朱実あけみ
「信じられない。使える権力は使おうと思うんだが」

 ざっと行列が避けようとする。

「駄目だ。皆、戻れ。ちゃんと並んで買ってください、兄上」

 うーん。
 冷めちゃうから早くして?

「あ、成人なるひと。お前はうちへ入れ」
「今、忙しい」
「風邪引くだろうが」
「見て!たくさん着てる」

 俺は、上着の前を開けて、中にも重ね着してることを見せた。

「くしゅんっ」
「あー、あー、分かった。前を開くな、閉じろ」

 そうする。上着が体から離れると、途端にすうっと寒い。たこ焼きの鉄板の前にいる広末ひろすえ村次むらつぐなんて、上着も着てないのに!水瀬みなせ鼓与ことは、俺と同じで上着をしっかり着てる。
 あ。
 鉄板の前は、熱いのか。
 こちらの手伝いも楽しいけど、あちらもそのうち、してみたいなあ。並んでいる人も、食べている人も皆、ほうって感心しながら二人の手元を見ている。すごいでしょ?うちの広末ひろすえ村次むらつぐ。今日はお休みだけど、壱臣いちおみもすごいんだよ!
 結局、緋色ひいろにうながされた先頭の人が、百円払ってたこ焼きを受け取った。最初に買ってくれた警備隊の人が、百円しか持ってなかったんだよね。だから、値段は百円になった。

「百円でいいんですか?」
「今日はお試しだから、百円です」

 本当はあげてもいいんだけれど、欲しい人みんなに配れないから、売る形を取ってるんだって。大勢を相手にするのって、色々考えなくちゃならないから難しいみたいだ。離宮は、人の数が多すぎないから、やりたいことがやりやすい。俺は、良いとこに住んでるなあ!
 まあ、緋色ひいろと一緒なら、どこでも良いとこだけども。
 
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