【完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

203 初めての料理  成人

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 半分に割って、たこを取り出して、ふー、ふー。
 わ。かつお節と青のりが飛んだ。

「ありゃ」

 前に、買って食べたたこ焼きもふーふーしたけど、こんなことにならなかった、気がする。あの時のたこ焼きよりたくさん、かつお節が乗ってたのかな。外だったから、ちょっと飛んでも気にならなかったのかな。

「なる坊、少し割って置いといて、冷めるのを待ちな。その間に、ひっくり返すのやってみるか?」
「やるー」
「俺もやりたい」

 俺の横で、あちあちと言いながら、もう口にたこ焼きを入れていた力丸りきまるが言う。

「はいはい。二人ともこっち来てください」

 楽しみ、楽しみ。棒一本でひっくり返せるんだから、片手があれば十分だよね。
 右手を、わきわきと握って開いて、準備運動しておく。体を端っこまで思い通りに動かすには、準備が大事!

「さっき俺がやるのは見てたな?よし。村次むらつぐの横について、とりあえずやってみろ」

 へ?
 いいの?
 そういうものなの?
 
「うわあ、焦げるう。間に合わない」

 村次むらつぐがあわあわし始めたけど、いいの?

「ほらほら、なる坊急げ。力丸りきまるさま、棒を型に沿わせるようにぐるんって回して」
「真ん中まだ液体だけど、もういいのか?」
「そんくらいでひっくり返すんですよ。下は固まってきてるでしょ」

 よし。棒を型に沿わせて、くるん。
 おお!

「できた!」
「上手い上手い。ほれ、次!なる坊、止まるな、急げ。三人とも頑張れ」
「お、美味しく作らなきゃ……」

 村次むらつぐは必死だ。はやい、すごい。でも、広末ひろすえはこれ、一人で全部ひっくり返してたよね?
 え?すごくない?

「ひえー。楽しいけど、忙しいな。これ」
「うふふふふ」

 楽しいー。
 あ、きれいな丸にならずにつぶれた形になっちゃった。

広末ひろすえー。丸にならなかったー」
「うわ、俺も」
「ああ、いい、いい。何回もやってたら上手くなる。気にせず手を動かせ」

 変な形になっちゃったやつも、焼けたらお皿に入れていく。

「はははっ、力丸りきまる。下手くそ」
「殿下。そこ成人なるひとの失敗じゃないっすか?」
「これ、お前だろ?」
緋色ひいろ。俺のたこ焼き食べる?」
「おう。上手くできたか?」
「上手なの、あげるね」

 緋色ひいろが、すごく嬉しそうだから、俺も嬉しい。

成人なるひとの料理か……」

 料理?
 おお。俺、料理作ったの?

「す、すごい……」
「なる坊、感動してる暇はないぞ。焦げる」 

 はーい。
 料理って忙しい。
 でも、楽しい!

成人なるひとのたこ焼き、旨いぞ」
「えへへ」
「どれ、じいじも成人なるひとの作ったのを貰おうかな」
「うん!」

 村次むらつぐのきれいな丸いたこ焼きも、どんどん貰われていく。じいやも、黙って村次むらつぐのたこ焼きを取った。
 あれ?じいや、居たの?

「え?俺のたこ焼き、売れ残ってる……」
力丸りきまるのは、私が食べるよー」
義姉上あねうえー!」
乙羽おとわ。腹を壊したら困るから、料理人のを食べろ」
「むかー。兄上には一生やらないからな!」
「くれるって言ってもいらん」
「本当に俺のは食べるなよ!」

 緋色ひいろが美味しそうに食べてる。嬉しい。もっと上手になりたい。もっと何か作ってみたい!
 
「次、壱臣いちおみさんお願いします」

 汗を拭った村次むらつぐと一緒に鉄板の前から避けると、はいよー、と笑った壱臣いちおみに交代した。

「私は、兄上のを待ちますね」

 三郎さぶろうは、まだ食べずに待ってる。
 誰のを食べても一緒の味な気がするけど、作った人が特別な人なら、特別な味になるのかもしれない。
 常陸丸ひたちまるはけらけら笑いながら、力丸りきまるの失敗作を食べていた。
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